等高線から、山の形を立体的に把握しよう!
地図読みの真髄…それは等高線が描く様々な山の地形!
例えばカーナビとGPSアプリ、同じ「現在地の把握と目的地へのナビゲーション」を目的にしていてもクルマか徒歩かの用途の違いで、画面は全く異なりますよね。
GPSアプリに表示されるのは「地形図」。前回はその中の“地図記号”をご紹介しましたが、地形図の強みと醍醐味は何と言っても“等高線”です。驚くほど正確に描かれた等高線は、その読み方のコツをマスターすれば紙地図・GPS画面という平面から山の凹凸を立体的に思い浮かべることが可能。
今回は、そのヒントをわかりやすくご案内します。
そもそも等高線とは…?
まずは…等高線の基本のキ
等高線の定義は…
・同じ高度上の点の集まりを結んだ線
・およびそれらが決まった間隔で連なった線の群れ
と言う何やら難解な言い回しで説明されています。
決まった間隔…は地図によって異なります。
登山やランで使用される1/25000地形図やGPSアプリでは、等高線は10m間隔で細線(主曲線)・50m間隔で太線(計曲線)が描かれています。
*登山地図でお馴染みの「山と高原地図」は多くが1/50000なので20m間隔
では、具体的に等高線はどのように山の形を描いているのでしょうか。
例えば槍ヶ岳の穂先のような「円錐形」の山の場合、等高線は下のイラストのように「同心円」の形で描かれます。
ところで地面に円錐形の穴があいている場合でも、等高線では同じように表現されるのです。
実際には、山でこんな深い穴があいている場面はそうありませんが…。
この「山」と「穴」見分けるポイントは、その等高線が何mを示すものかを把握すること。
・内側の等高線の方が外側の等高線より高い標高を示していれば「山」
・外側の等高線の方が内側の等高線より高い標高を示していれば「穴」
となります。
このように等高線の一部を分断して記載された標高や、最寄りの三角点・水準点・標高点など標高を示すものを手がかりに、その等高線が何mを示すかを素早く見抜けるようになりましょう。
等高線の間隔からわかる「斜面の傾斜」
等高線の間隔からは、斜面の傾斜の緩急を知ることができます。
・等高線の間隔が広い(疎な)場合は緩やかな傾斜=上の地図だとA・Cが該当
・等高線の間隔が狭い(密な)場合は急傾斜の斜面=上の地図だとB・Dが該当
同じ場所の写真と照らし合わせると、一目瞭然ですね。
等高線と登山道の関係からわかる「道のエグさ」
斜面の緩急を理解したところで、その斜面を描く等高線と登山道の関係から「道自体の緩急」を想像してみましょう。
●A:等高線に対して直角に伸びる登山道
中腹から山頂へまっすぐ直登する、傾斜としては急な道です。
●B:等高線に対してジグザグに伸びる登山道
いわゆる等高線が密な急斜面、そのため歩く距離は長くなりますが傾斜が緩やかになるよう、登山道がジグザグに設けられています。
●C:等高線に対してほぼ並行に伸びる登山道
いわゆる「トラバース」と呼ばれる、傾斜がほとんどなく体力的には楽な道です。山頂を経由せずに中腹を迂回する「巻道」などもこれに該当。ただし斜面上部からの落石や、斜面下部への滑落などのリスクもあります。
特にこの場所は「岩」の地図記号もあり、通過には注意が必要です。
等高線が描く山の地形
ピークとコル(鞍部)
まずはピークを見つけよう!
前項で触れた“穴”でなければ、等高線がぐるっと1周して円形や楕円形など輪の形に閉じている場所は“山”すなわち「ピーク」となります。日本百名山など著名な頂も、名も無い小ピークも、この原則は同じ。
複数のピークが連なっていれば、ピークとピークの間は低くなっていますよね。この箇所を「コル(鞍部)」と呼びます。
地形図は縮尺に対して厳密に描かれています。ともなって、輪が楕円形で大きなピークは実際も広くなだらかな山頂に、輪が円形や三角形で小さなピークは実際も狭く急峻な山頂になっています。
上の地図で言えばピークA・B・Cと比べて、ピークDは輪が小さく顕著に見えるピークと言えますね。
ピークに多い名前
ピークすなわち「山」に多い名前と言えば、山・岳(嶽)・峰(嶺・峯)ですが他にもこんな呼び名がピークの名前であることも。
●頭…赤抜沢ノ頭(南アルプス)・トーミの頭(浅間外輪山)など
●森…瓶ヶ森(石鎚山系)・二ツ森(白神山地)など
●塚…西臼塚(富士山)・鍋塚(大江山連峰)など
●嵓…俎嵓・柴安嵓(ともに尾瀬燧ヶ岳)など
●ドッケ・ドッキョウ…芋ノ木ドッケ(奥多摩)・高ドッキョウ(山梨・静岡県境)など
●ヌプリ(アイヌ語で「山」)…ニセコアンヌプリ・イワオヌプリ(北海道)など
山でも、「やま」「さん・ざん」「せん」など読みが違う場合がありますよね。山名の由来と一緒に、面白い呼び名の山を探すのも楽しいですよ。
コルの別名あれこれ
ピークに挟まれた地味な存在でもあるコル。それでも、様々な呼び名からその場所がコルであることを類推できます。
●乗越(のっこし)…水俣乗越(北アルプス・表銀座の西岳と槍ヶ岳の間のコル)・岩苔乗越(北アルプス・裏銀座から雲ノ平へ向かうワリモ岳と祖父岳の間のコル)など
●垂水・弛・タルミ…大垂水峠(奥高尾・小仏城山から続く稜線と南高尾山陵の間のコル)・大弛峠(奥秩父・国師ヶ岳と朝日岳の間のコル)・三条ダルミ(奥多摩・飛龍山から続く稜線と雲取山の間のコル)など
●キレット(切戸)…大キレット(北アルプス・南岳と北穂高岳の間のコル)・八峰キレット(北アルプス・五竜岳から続く稜線と鹿島槍ヶ岳の間のコル)など
ちなみに「峠」という地名も、一部の例外を除いてコルやその付近に多く存在します。いにしえの人々が山を越える際に、わざわざ高いピークを通るより低くなっているコルを通る方が容易ですからね。
飛騨(岐阜県)の貧しい女性達が信濃(長野県)岡谷地域の生糸工場で女工として働くために通った「野麦峠」、釜トンネルが開通するまでは上高地の主な入山コースだった「徳本峠」なども、全てコルに位置しています。
隠れピーク
地図上では等高線が輪の形に閉じていない場所でも、実際には盛り上がっているところが「隠れピーク」。等高線が10m間隔で描かれている1/25000地形図で、ピークとコルの標高差が10m未満かつそれぞれの標高が同じ10m単位内に収まっていることから起こる現象です。
隠れピークを見抜くコツは、ズバリ「くびれを探せ」!等高線が半円形を描きつつ、その付け根がひょうたんのようにくびれている場所を探すとわかりやすいですよ。
なぜ「くびれ」がヒントになるかは、次にご紹介する尾根と谷を理解することでわかりますよ!
尾根と谷
ピーク・コルとの関係
適切な表現かはともかく、敢えてわかりやすく言ってしまうなら…ピークとコルが連なる「稜線」が木の幹だとすると、「尾根」はそこから派生する枝、「谷」は枝と枝の間の隙間です。
上の地図のように…
●ピークを出発点に標高の高い方から低い方に指状に張り出している等高線は「尾根」を表します
●コルを終点に標高の低い方から高い方に指状に張り出している等高線は「谷」を表します
谷の終着点がコルであるからこそ、その部分が「くびれ」となり隠れピークを見抜くことができるのです。
等高線が示す標高から尾根と谷を見極めよう!
少しわかりにくかったでしょうか?
ピークとコルに頼らずとも…
●標高の高い方から低い方に指状に張り出している等高線は「尾根」
●標高の低い方から高い方に指状に張り出している等高線は「谷」
と覚えるだけでも十分です!
加えて…
●尾根は高い方から低い方に、谷は低い方から高い方に枝分かれする
●基本的に、尾根と谷は交互に存在する
●多くの場合、尾根より谷の方が鋭い指状の等高線で描かれる
と言う法則も念頭に置いて頂ければ、「尾根」と「谷」の区別がつきやすくなることでしょう。
尾根と谷で異なる道迷いの注意点
前項でお伝えした尾根と谷の特性から…
●尾根を通って下山する時は、枝分かれしている間違った支尾根に下らないよう注意が必要
●沢登りのように谷を遡行する場合は、枝分かれしている間違った支流に入り込まないよう注意が必要
となります。
沢登りはロープワークや幕営技術などの他に「読図」の知識も必要な、登山の総合技術が必要とされるアクティビティであることは、ここにも由来します。
まとめ
実際の景色を例に山を立体的に把握してみよう!
それでは、山肌の陰影がわかりやすい雪山を例に「ピーク」「コル」「尾根」「谷」を、実際の景色に書き込んでみましょう。
すべての尾根と谷をトレースできてはいませんが、ここまでお伝えしてきた山の地形が、ある程度は立体的に把握できるのではないでしょうか。
山で出会う地形は…せいぜい5種類
冒頭で例示した「穴」を除けば、山の地形はおおむね5種類に分別可能。そして自分が何の地形にいるかは、周りの景色を見れば簡単にわかります!
●ピーク:自分の周囲が360°低く見える景色
●コル:ピークから下って登り返す場所
●尾根:自分の両側が低くなっている「橋の上」のような景色
●谷:自分の両側が高くなっている景色
●尾根と谷の間の「斜面」:片方が高く片方が低く見える景色
登山道との関係は3.3.3.でご紹介の通り
現在地の把握や、これから進む登山道の様子を想像する時にも、等高線の読み方を理解しているとスムーズになりますよ。
めざせ!等高線フェチ…?
等高線から山を立体的に把握できるようになると、地形図を見ているだけでルートの地形を想像することが可能に。
例えばこのルート、エモくありませんか!?
地図の右下からスタートし、立岩〜威怒牟幾不動を経由する反時計回りの周回コース。
沢沿いのスタート地点から尾根上・沢沿いの登りを繰り返し、立岩直下でトラバース、岩がけの地図記号もある急斜面を直登して稜線に到達。山頂部分の等高線が疎(=平坦)で周囲を急斜面に囲まれているテーブルマウンテン状の立岩からは、両側が岩がけになっているヤセ尾根を進み、威怒牟幾不動へ沢沿いに下降。広い尾根を乗り越えて再び沢沿いに下り、尾根や谷が連続する斜面をトラバースしながらスタート地点に戻る…そんな変化に富んだルートが想像できるのです!
地形図を眺めながら立体的に浮かび上がる山の地形を想像してニヤニヤ…そんなあなたは、もう「等高線フェチ」の仲間入りです!
Vol.4では、ここまで学んだ知識を活用してのルートの先読みや天候に応じたリスク回避のコツを、ご紹介します。
お楽しみに!
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