「地図読み」をマスターしよう! Vol.4

ルートの「先読み」でペース管理&リスク回避を実践!

体験談〜地図が読めて助かった〜

実録1.間違っても迷わない!

電子国土25000を元に加工(青が正規ルート・赤が私が進んだルート)

時は1990年代後半の高校時代。私は山岳部の後輩を連れて、顧問・OBが同行しない少人数の「個人山行」で東京都最高峰・雲取山をめざしました。
ルートはお馴染みの奥多摩湖畔・鴨沢バス停からの往復ルート。登山口から約2時間は、七ツ石山から南方向に伸びる尾根の東斜面をトラバース気味に進み、堂所というコルでようやく尾根の上に出ます。

ところがこの時、歩き始めて数十分もしないうちに私たちは早くも尾根の上に出てしまったのです。本来であれば引き返すのが賢明ですが、この日は時間も限られた日帰り登山。私は(当時はGPSもなかったので定かではないですが)赤破線のようにそのまま尾根に上がってしまったと推測。地形図でこの先のルートを確認し…
・いずれにせよ堂所まで行けば正規ルートが今いる尾根に合流する
・登りであれば支尾根に迷い込むリスクは少ない

と言う想定の下、この尾根上を進むという判断を下しました。幸いその先の尾根道は早春で藪も深くなく、獣道程度のトレースも存在。「とにかく(両側が低くなっている景観の)尾根を外れない」ことに細心の注意を払いながら進み、想定通り堂所で正規ルートに合流することができたのです。

実録2.私は私の道を行く!

電子国土25000を元に加工(矢倉岳から地蔵堂への下山コース)

2019年10月の台風19号は日本各地に甚大な被害をもたらし、普段あまり台風の影響を受けない南関東の山々にも大きなダメージを与えました。
この台風19号の約10日後に私が訪れたのが、神奈川県・足柄の矢倉岳。上の地図上で右上の矢倉沢から登り、左下の地蔵堂(地図だと「堂」が切れてしまっていますが…)に下山するルートです。

ここまでの連載を読んで頂いた方ならお分かりかと思いますが…
・矢倉沢から軽車道を進み、徒歩道に変わってからは尾根上の登山道
・矢倉岳からの北西方向への下山も尾根上の登山道
・地図上で左上の分岐から南方向への下山は矢倉岳南西斜面のトラバース
・送電線を潜ったところから尾根を下り、Cのポイントで川を渡る
・軽車道がトラバース状に設けられた小さな尾根を越えて地蔵堂へ

というルートですね。

赤字で示したトラバース区間は、(直線状の等高線が連なっている堰堤の法面のような平面的な斜面でない限り)斜面には尾根と谷が連続して刻まれています。
・尾根をまたいでトラバースする部分では、登山道は山側が内側のカーブ
・谷筋をトラバースする部分では、登山道は谷側が内側のカーブ
を描きます。

地図上のA地点で斜面が崩落…!

この時、私はA地点で斜面が大きく崩落し、倒木や土砂で登山道が塞がれてしまっている場所に遭遇。この場所は、登山道と谷筋が交差するポイント。台風による豪雨で沢が水の通り道になったため、この様な状態になってしまったのです。
クライアント(お客様)や同行者が一緒であれば、間違いなく引き返すべき局面。ただしこの時はソロ、ロープやビレイ器具も携行しており自分ひとりであれば、この場所を通過する自信はありました。

私はこの先のルートを確認しました。この先で同じように登山道と沢筋が交差するポイントはB地点のみ、そこからは崩落リスクのある場所はありません。結果としてA地点を慎重に通過し、B地点では登山道に大きなダメージはなく、予定通り地蔵堂に下山することができたのです。

決して…美談ではありません💦

C地点先の藪漕ぎ…

誤解して頂きたくないのは、この2つのエピソードは決して美談ではないということ。

雲取山のケースでは、尾根上に点在するピークが険しく滑落していた可能性もありますし、私が推測したのとは別の尾根に上がってしまっていたら元も子もありません。
また当然ながら正規ルートよりは時間もかかり、下山も遅くなってしまいました。山行のリーダーとして、帰宅後には同行した後輩の親御さん全員にお詫びの電話を掛けたものです。

矢倉岳のケースでは、そもそも沢筋のトラバースで崩落の可能性があることは想定の範囲内。「登山道の状況確認」という目的の登山だったので敢えてこのコースを進みましたが、本来であれば比較的ダメージの少ない尾根上を引き返すのが賢明です。
案の定、C地点では川が増水しており渡渉を、その先では登山道が消滅しており猛烈な藪漕ぎを余儀なくされました。

大切なのは…
・そもそも道間違いを起こさないよう地図上でルートを先読みし、実際の景観と地図をこまめに照合しながら進む
・登山道の設けられているルートの地形からリスクを想定し、場合によっては予定ルートを回避する
ことです。

前置きが相当長くなりましたが、実際に地形図からルートを先読みしたりリスクを想定する方法をご紹介しましょう。

ルートを先読みしてみよう!

あとどれだけ進めば…本当の山頂?

電子国土25000を元に加工(赤丸のピークはニセ巻機の別名で知られる前巻機山)

あえぎあえぎ登ってようやく到達したピーク、実はお目当ての山頂手前のニセピークだった…と言うことはよくありますよね。上の地図の巻機山で言えば、ニセ巻機から避難小屋のあるコルへいったん下り、巻機山へ登り返さないといけません。精神面のダメージはもちろん、巻機山の主稜線へ向かう、等高線に対して垂直な急登へ温存すべき体力面のダメージも計り知れません。

特にGPSアプリが普及した昨今、現在地の把握自体は比較的容易です。現在地から目的地までのルートを先読みすることで、アップダウンの数や勾配を想定したペース配分が可能になるのではないでしょうか。

電子国土25000を元に加工(トレニックワールド 100mile & 100km in 彩の国のコースを例に/青はコル・赤はピーク)

例えば上記の「トレニックワールド 100mile & 100km in 彩の国」ルート。地図下部の白石峠から地図上部の笠山を目指す区間です。
ピークとコルを明確にすることで、アップダウンの回数だけでなく、下り勾配の長い堂平山の先や上り勾配の長い笠山の手前などの“要注意ポイント”が浮かび上がり、ペース配分に役立つでしょう。

稜線に出るまではどんな地形?

電子国土25000を元に加工(西丹沢・雨山峠までの登山道)

冒頭の雲取山の例の通り、いわゆる“主稜線”に辿り着くまでのアプローチでは様々な地形の登山道を通過します。
ここまでで学んだ、谷(沢沿い)・尾根・トラバースの地形の特色を反芻することで、仮にGPSアプリがなくとも自分が主稜線(この場合は雨山峠)に対して、どこまで近づいているのかを把握することが出来るのです。

地形によるリスクを見極めましょう!

ピークや尾根でのリスク

下の写真のような険しいピークや尾根であれば、まず考えられるのが滑落のリスク。足元が滑りやすい雨天時や、バランスを崩しやすい強風時には、通過に注意が必要です。

大小のピークが連なる西穂高岳の稜線

また、あわせて想定されるのが落雷のリスク。上の写真の奥に見える西穂高岳独標では、1967年に11名が亡くなる落雷事故が発生しています。周囲より高くなっているピークや尾根であれば、西穂高岳のような険しい稜線でなく車山などのなだらかなピークや尾根にも落雷の可能性は存在。森林限界より下のピークや尾根であっても、近くの木が落雷を受け感電する事故も発生しているので注意が必要です。

なだらかな地形の車山

森林限界を越えるピークや尾根は周囲に高い植物がない分、見晴らしは非常に良いものです。ただし翻ると、遮るものがない場所でもあり風雨や日照の影響をまともに受けることも忘れてはいけません。
気温が低く風が強い時の低体温症、日射しが強い時の熱中症のリスクを念頭に、レイヤリングや水分補給にも工夫が必要です。

爽快な燕岳の稜線も天候によってはリスクが存在します

谷(沢沿い)でのリスク

八ヶ岳・北沢登山道

谷(沢沿い)でのリスクは、何と言っても「水」に関するもの。大雨の最中や直後には、増水で登山道が冠水する恐れもあります。こうした状況で無理に行動すれば、濁流に流される水難事故に直結。もし渡渉が余儀なくされる場所に出会ったら、引き返すか迂回するルートを探すのが賢明です。
谷の両側は斜面になっているため、晴れた日でも日照時間は短いもの。足元が湿っていたりぬかるんでいる場合もあるので、滑って転倒する事故にも注意しましょう。
また斜面が登山道に迫っている場合は、斜面上部からの落石や倒木などの落下物にも注意しましょう。

トラバースでのリスク

高尾山・稲荷山ルートのトラバース

斜面上を並行に進むトラバース。山側(写真左)からの落下物、谷側(写真右)への滑落に注意が必要です。写真の場所では谷側に滑落を防止する柵が設けられていますね。こうした場所で他の登山者に道を譲る時には、「山側の路肩に立ち、ザックも山側に向ける」ことが安全なすれ違いに有効ですよ。
また冒頭の矢倉岳の例がまさにそうですが、谷筋と交差するポイントでは降雨時・降雨後の登山道の崩落にも注意が必要です。

地形によるリスクに応じたルート選びを!

電子国土25000を元に加工(高尾山周辺の登山道・赤=尾根沿い/青=谷沿い/緑=トラバース)

ここまで読んで頂けたら、上の地図の高尾山から下山する際に、天候やコンディションに応じてどのコースを選択するかは“消去法”的な考え方によって自ずと決まってきます。

1.地図の最下部、赤線のルートは「稲荷山コース」と呼ばれる尾根上のルート。樹林帯の中ですが、発雷時には周囲の樹木への落雷も想定されます。また、高尾山で最南端に位置するため、南風の強い時などは倒木の恐れもあります。特にA地点の様にコルで稜線がヤセている場所では滑落のリスクもあります。こうした状況下では、落雷や風の影響が少ない別ルートでの下山を検討しましょう。

2.稲荷山コースの上の青線のルートは沢沿いの「6号路コース」。大雨の最中や直後には、登山道自体が冠水している恐れもあります。特にB地点は狭い谷(=等高線が標高の低い方から高い方に鋭角)であり、2019年10月の台風19号では穏やかな渓流の中の飛び石が設けられた登山道の様相が一変してしまいました。こうした状況下では、水難事故の恐れが少ない別ルートでの下山を検討しましょう。

飛び石はそのまま、さらに深く抉られたB地点

3.緑線のルートはトラバース、ここにもリスクは存在します。
「4号路」のC地点は高尾山の北面にあたるため、特に降雪直後は凍結していることが想定され、滑落の危険があります。
また「3号路」のD地点は、冒頭の矢倉岳の例と同じく谷筋と交差するポイントにあたり、大雨の最中や直後には登山道が寸断されている恐れもあります。

こうした場合には、日当たりや水はけが良い尾根上の別ルートでの下山を検討しましょう。

ご愛読ありがとうございました!

全4回に渡って連載させて頂いた「地図読み」コラム、いかがでしたでしょうか?私自身もルートロストや撤退は日常茶飯事…登山の度に“反省”と“学び”の繰り返しです…。
けれども「地図読み」を通じて、登山やランがより楽しく安全になればと思い、拙い文章ながら執筆させて頂きました。
今回の連載ではご紹介しなかった「コンパスワーク」を含めた実技なども随時開催しています。情報発信はTwitterを中心に行っていますので、フォロー頂ければ幸いです!
全4回の駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました🌱

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Allein-Adler

登山ガイドと登山女子のちびっこコンビ('ω')(´ω`) 普段は主に関東周辺や八ヶ岳・日本アルプスに出没。 登山ガイドは、WEBメディアでのルートガイドや記事執筆、ガイディング(得意分野は読図)、ネイチャーガイドの育成、登山イベントのパブリシティ取材などで活動。 登山女子はアウトドア業界の著名人へのインタビューや、女性目線での記事執筆、Blog「山あるきへの招待状」を連載中。 マルチに活動する「山の何でも屋」です。

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