2023年5月20~21日に開催された「トレニックワールド100マイルin彩の国」走ってきました。
距離約160km、累積標高11000m(約55km累積3500mを3周)、制限時間35時間という厳しさから、国内最難関100マイルトレイルランニングレースと評されることが多いです。
実際、私も今回挑戦四度目にして、なんとか完走できました。
その経験を元に、完走するためにどのような練習をしてきたのか書いていきたいと思います。
目次
三年計画で完走を考える
このレースは、散々述べているように厳しいです。
100マイルレースの経験が豊富でフィジカルが強くても、たった一度のミスで完走できなくなります。
・フィジカル(走力を含む)
・適切な補給
・メンタル
大まかにこの三大要素が重要です。
最低限のフィジカルがないとそもそも制限時間に間に合いませんし、補給でミスをした結果、体調が悪くなるとフィジカルで押しきれません。
そしてフィジカルと適切な補給ができてこそ、3周目(100km過ぎ)からのメンタル勝負に持ち込めます。
これらはとても一年で身につけられるとは思えません。
また、このレースは暑くなることが多いです。第一回大会では昼は灼熱で夜は大雨でした。
2017年~2019年の完走率が低かった(0%~20%)要因は暑かったからです。2022年~2023年の完走率が30%台になった主な要因は比較的涼しかったからでしょう。
三年で完走を目指すというのは、三年連続天候が牙を剥くことはまずないだろうという統計上の見通しも含まれています。
フィジカル(走力を含む)
ベース速度を上げる
平地のロードを走る際、最低限Eペース(最大心拍数の60〜70%)で1kmを5分で走れないときついです。これは日常のランニングで鍛えることができます。地道にジョグを積み重ねるしかありません。
また、レース中にEペースの心拍数を越えないように心がけ、体力の消耗を抑えます。
登りの速度を上げる
11000mも累積標高がありますし、彩の国のコースは下りも急なのでスピードが出せません。よって登りの巡航速度は最重要といえます。
登りも下りもそうですが、一番意識することは、ハムストリングスとお尻の筋肉を使い、前腿の大腿四頭筋を温存することです。
登りは走らなくても完走できます。私はロードなどのゆるい傾斜は別としてほぼ走りませんでしたが、制限時間二時間前にゴールしています。
100マイルレースなので当然のように消耗しないように歩きます。
具体的な方法ですが、歩幅を極力小さく、ピッチを落とさずに、踏み込む脚のお尻やハムストリングスを最大限に使って登ります。地面を優しく押し、着地する脚には力を入れないようにしましょう。
平地を走って登りに差し掛かかり、歩きに変えるとピッチまで落ちてしまうひとがいます。
そうではなく、ストライドだけ狭めるべきです。走るようなピッチで歩きます。「走る」と「歩く」の境界線を曖昧にし、繋がっているものと捉えると上手くいくと思います。この意識だけで登りが速くなります。
下りは消耗を少なく
下りは遅くてもいいです。とにかく大腿四頭筋を使わないようにしましょう。終盤下れなくなります。
彩の国の下りは急な下りが多いです。そうなると速度も遅くなります。走っても歩いても差はそこまでつきません。ならば消耗を抑えるのが賢明です。
なだらかな走れる下りでも、ちょこちょこと歩幅を小さくして走りましょう。
下りはつま先で着地するというのがセオリーです。しかし100マイルでは大腿四頭筋を温存するため、踵寄りの着地をして、登りと同じようにハムストリングスを使います(急な下りは別です。つま先からゆっくり下りましょう)
下りで踵寄りの着地は怖いと思います。つま先で着地すれば滑っても、まだ残っている中足部、踵で制御できるので安心感があるからです。しかし踵だと滑ったら尻もちをつきます。
しかしこの走り方ができれば確実に大腿四頭筋を温存できます。
コツは大腿四頭筋に力を入れないことです。力を入れるとブレーキが掛かってしまい、逆に消耗します。
後傾気味になるのは仕方がないですが、脚は体の真下に着地し、接地時間を短くするイメージで脚を回すことでブレーキを最小限に抑えることができます。
感覚を掴めるように練習しましょう。最初はロードのゆるい下りで練習してから林道、トレイルと段階を踏んでいくと身につけやすいです。
この走法ですが、私は100マイルレースでしか使っていません。そのくらい特殊で温存に特化した走り方だと思います。
適切な補給
補給食
各個人の胃腸の強さに左右されるので正解はありません。
Eペースの強度以下で長時間走り、なにがずっと摂れるのか、実験するしかありません。
固形物を摂れるひともいれば、この強度でもジェルを摂り続けないと体調を崩すひともいます。
ひとつ言えることは、補給食は種類が豊富なほうがいいということです。
ジェルが受け付けなくなっても、セブンイレブンのレモンわらびなら食べられるとか、オイエナを500mlの水で割れば体が受け付けるとか、実験を繰り返し、最悪を想定して補給食を揃えましょう。
胃の中のpHバランスを整えるようにするとトラブルが抑えられるという説もあるようです。私も偏らないようにしています(補給食は酸性に傾きがちなので、エイドではアルカリ性に分類されるバナナやトマトや豆乳を積極的に摂っています)
また、エイドでお湯を積極的に摂って胃を活性化させるとか、胃腸に少しでも違和感が出たら我神散を飲んで胃酸を出すようにするなど、想定されるトラブルの対処方法を確立しておきましょう。
電解質をどれくらい摂るか
これも各個人で違うので、実験するしかありません。
発汗量が多いひとなら多く摂る必要がありますし、逆ならば塩タブレットやエイドの梅干しで済んでしまいます。
私は汗をあまりかかないので、片方の500mlのフラスクに経口補水液を入れて少しずつ飲み、喉の乾き具合や小便をしたときの尿の色を見て、足りないと思った場合、お吸い物の粉末(1.5gの塩分。塩サプリは一粒0.1gです)を直接口に入れて水で流し込んでいます。
メンタル
彩の国の3周目は温存していてもメンタル勝負になります。ここまで約100km、累積7000mを22時間以内で走っているので当然です。
今まで述べたことは、このメンタル勝負を少しでも楽にするための方法です。
大腿四頭筋の疲労がたまり、痛くなっていたら下れません。胃腸トラブルに見舞われて補給もろくにできないなら戻ってくることはできません。
こうなってくると、あと50km累積3500m残っている3周目に突入することは容易ではありません。心が折れます。
「辞めよう」この言葉しか浮かんでこないはずです。
メンタル勝負は決して根性ではありません。最低限のことをこなして初めてメンタル勝負に持ち込めると意識して、とにかく温存しましょう。
筆者のレース展開
出走者数は295人でした。
第1エイド 241位
1周目 165位 9時間
2周目 63位 11時間半
ゴール 50位 12時間半
順位は上がっていますが、まったく飛ばしていないしスパートもかけていません。
前述したように温存に徹し、落ちてくる選手を拾っているだけです。
焦る必要はまったくなく、周りに引っ張られず、常に同じペースを保つのを意識するのがいいと思います。
レースコンディションは良く、涼しさに助けられました。
対策装備
INSTINCT EVOLUTION 7L
https://shop.inner-fact.co.jp/?pid=166435540
彩の国は暑くなることが多いのでザックを変更しました。
普段はSalomonのADV SKIN 5SETを愛用しています。このザックはフィット感が最高で、身体を包み込むような形状をしています。その代わり暑いです。
そのためINSTINCT EVOLUTION 7Lに急遽変更しました。フィット感はADVSKINと比べてやや劣りますが、脇腹左右にポケットがないからか通気性が確保されていて涼しかったです。
フロントのバックル固定も気に入りました。登りに入ったときにバックルを外すと締め付けから開放されて、更に涼しくなります。疲労も若干軽減します。
フロントの収納力があるのでジェルなどの補給食も沢山入りました。
この商品はインナーファクトでも取り扱っています。レンタルサービスもあるのでぜひ試してみてください。
Polartec PowerDry Tシャツ
https://shop.inner-fact.co.jp/?mode=cate&cbid=2651562&csid=7
小雨が降る蒸し暑い中で使用しましたが、暑さをあまり感じず、寒くなることもなく、すぐ乾くので快適でした。丈が長く、めくり上がらないので冷えも軽減できます。
レースでは初めて使いましたが、気に入っているパタゴニアのリッジフローシャツに匹敵する万能Tシャツだと感じました。
INNER-FACT テーピング
https://shop.inner-fact.co.jp/?mode=cate&cbid=2843801&csid=0
時々雨が降る、25度以上の気温の中、33時間貼りっぱなしでしたが、まったく剥がれませんでした。
写真のように、膝上、膝下、腸脛靭帯、踵の固定とあらゆる場所に貼っていました。
疲労軽減、炎症防止、捻挫防止の効果もきちんとありました。これからも使い続けます。
難点といえば、ニューハレと比べて暑く感じたことです。これは粘着力とのトレードオフだと思います。
こちらのブログで詳しくレビューしているので気になった方はどうぞ。
【インナーファクトのテーピングが便利すぎるその理由】
https://inner-fact.co.jp/5682/
インナーパンツ
https://shop.inner-fact.co.jp/?mode=cate&cbid=2651562&csid=4
ラミーソックス(5本指ミドル丈)
https://shop.inner-fact.co.jp/?mode=cate&cbid=2431131&csid=0
ガーニーグー
https://shop.inner-fact.co.jp/?mode=cate&cbid=2422129&csid=0
この三つは鉄板です。今回もまったく擦れも足裏の豆もありませんでした。
33時間という長時間、ワセリン(ガーニーグー)を塗り直さず、靴下やインナーを取り替えずにいてもトラブルがありません。
大雨のONTAKE100マイルでは24時間、バックヤードウルトラでは29時間、今回の彩の国で33時間と、トラブルなしの記録を更新し続けているので、何時間まで耐えられるのか興味が湧いています。
まとめ
フィジカルが強くても、当たり前を当たり前にこなすのがこんなに難しいと感じるレースはなかなかないと思います。それができても、3周目ではきついメンタル勝負になります。
まさに100マイルレースの総力戦ともいえる面白いレースです。
この記事が完走の手助けになれば幸いです。
レース装備(携帯品)
ザック:INSTINCT EVOLUTION 7L
ヘッドウェア:Ciele / BKTHat、SUUNTO / BUFF
ボトル:インナーファクト / ソフトフラスコ、ULTIMATE DIRECTION / SOFTFLASK
シャツ:インナーファクト / Polartec PowerDry Tシャツ、Patagonia / Fore Runner Sleeveless
ドライレイヤー:Finetrack / Powermesh
インナーパンツ:インナーファクト / インナーパンツ
パンツ:Answer4 / 3Inch Short Pants
シューズ:Topo Athletic / Ultraventure
ソックス:インナーファクト / ラミーソックス(5本指ミドル丈)
レインウェア:THE NORTH FACE / Strike Trail Hoodie
ライト:Petzl / NAO(頭)、Ledlenser / NEO 10R(腰)
ウォッチ:COROS / VERTIX 2
ゼッケンベルト:ゴム紐xホチキス
ワセリン:ガーニーグー
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