必携品を持たなければいけない意味とは?

今まで個人的にスタッフや協賛メーカーとして多くの大会に関わってきましたが、先日初めて完全自主企画の大会「クマン100」を開催させて頂きました。

その際に「必携品は厳しくチェックしますよ!」とアナウンスさせて頂き、事前に選手の皆さんから基準について質問を頂きました。
今回参加者の方々はみなさん完璧に準備いただいていましたが、過去に別の大会で必携品チェック係のスタッフとして関わった際にいろんな方を見てきました。

  • ヘッドライトが100均の商品
  • レインウェアがウインドシェルやビニールの雨ガッパ
  • 防寒用の長袖がコットン生地
  • そもそも何も持ってきてない

これらはレースに多く関わってきていると当たり前のことですが、初めてトレイルランに参加する、初めてレギュレーションの厳しいロングレースに参加する選手にはわかりにくいのでは?と思い、「なんで必要なのか」の部分を解説していきたいと思います。

中には遠方から来て必携品チェックが通らなくて大会に参加できず激昂して、女性スタッフに詰め寄っている方も目にしました。
これでは選手もスタッフもかわいそうですので、少しでも必携品の理解が深まる記事として適宜リライトしていくので参考になる記事となるように解説していきたいと思います。

必携品の種類

大会運営者や距離やコーススペックによって必携品は変わってきますが、基本的にこれは持っておく必要がある!というものを紹介します。

  • ホイッスル
  • エマージェンシーシート
  • 熊鈴
  • エマージェンシーキット
  • ヘッドライト
  • レインウェア
  • 保険証
  • 小銭とお札
  • スマホ(携帯電話)
  • 食べ物

これらは大会でなくても山に入る際は必ず携帯しておいて欲しいと思いますし、レースに出る場合は必ず携帯する必要があるので練習の時から持っておかないと「重さ」にも慣れないです。

なんで練習の時も?と思う方は必携品を持つ意味を正しく理解出来ていないので、これを機にしっかりその意味を理解して頂きたいです。
明るい時間に短い時間しか山に入らないから、晴天で雨予報0%だから、熊はいない山域だから・・・etc。
全て関係ありませんし持たない理由になりません。

大会の必携品チェックをする際にも「夜走らないのになんでヘッドライトが?雨降らないからレインウェア置いて行っていいよね?」はかなりの頻度で耳にします。

一つずつ必携品の持つ意味を解説していきますので、もしこの「なんで?」と思った方は熟読ください。

必携品を持つ意味は?

そもそもなんで必携品を持たないといけないのか。
それも大会でもない時になんで荷物を増やさないといけないのか。
身軽に気軽にサクッと走りたい気持ちはとてもよくわかりますが、山では何があるかわかりません。

その日そのタイミングでは天候も良く何一つ必携品を持たなくても良いかもしれません。
でもそれは、何もなかったらいらないだけであって、何かあったらその全てが必要になります。
大事なことなのでもう一度言います。
何かあったら「必携品の全てが必要になります!!」

どんなに走力があっても、どんなに体力があっても、どんなに山の知識と経験値があっても、何が起こるかわからないのが山であり自然です。

毎日練習する山でも突如見たこともない倒木があったり、猪の掘り返しで道が荒れまくっていることもあります。
軽快に走っていてパッと曲がった先にいつもと違うトレイルになっていて、避けた先が藪になっていて踏み抜いてしまい滑落したら?
激しく捻挫したり転倒して動けない状態になったら。
そしてそこが運悪く電波が通じないところだったら。

そんな状況は「もしも」なので考えたらキリがないですが、あり得ることなのであらかじめ想定して備えておくことがそのもしもを乗り切る唯一の希望になります。

ここで一つの滑落体験のブログを紹介します。
福岡県のアウトドア用品店のGRiPSの店長さんの体験記です。
業界ではよく知られたお店で、もちろん店主の山の経験値はものすごく深く、いろんな体験もされてきている方ですが、読んでて怖くなる内容です。

さて、紹介した記事にもあるように山で怪我をすると動けなくなってしまう可能性は大きくあります。
山の中で一晩越さないといけなくなったと仮定します。
あなたが必携品を持っていなかった場合、どうなるでしょう?
そのことを考えながら以下に紹介する必携品の意味を再度認識してもらえると幸いです。

ホイッスルの必要性

ここからは滑落などして動けなくなったことを前提でお話しします。

大怪我をして動けなくなる場合どのような怪我になるかはわかりませんが、大きく体力が削られていきます。
まず大事なのは人の気配がしたら自分の存在に気づいてもらうこと。

大声を出そうにも体力を使います。
大きな怪我の場合は傷に響いて大きな声が出せないことも。
また、人の声は周波数的に障害物の多い山の中では遠くに届きにくいので、ホイッスルのように高い周波数の音が効果的です。

最近ではザックについているものも多いので確認しておきましょう。
ザックについていない場合は、フロントポケットのフラスコの近くに常時取り付けておくか、エマージェンシーキットにまとめて保管しておきましょう。

エマージェンシーシート、レインウェアの必要性

真夏であっても、汗や雨などでウェアが濡れていたり薄着であった場合、夜中に風が吹くと体温が一気に下がってしまいます。
一般的に標高が100m上がると気温は0.6度下がると言われています。
更に、風速1m毎に体感温度は1度下がると言われています。

仮に標高1,000mの地点で怪我をして動けなくなったと仮定します。
日中の気温は街中では30度でかなり蒸し暑いのでランパンとTシャツ一枚で山に入ったとします。
標高1,000mの地点では気温は24度と若干涼しさを感じます。
動けなくなって夜が来ました。
街中では気温は24度まで下がりました。
1,000m地点では気温は18度です。
運が悪く動けなくなった場所は風が抜けるポイントで風速4m吹いているとしたら、体感温度は14度です。

さらに運が悪く雨が降ってきたら?
雨が降らなくても山では霧が発生して全身が濡れるのなんて日常茶飯事。
体の熱はどんどん奪われます。

人の体の奥の温度である深部体温が35度以下になったとき、低体温症と診断されます。
35~32度は低体温症の軽症、32~28度は中等症、28~20度は重症とみなされます。

言わなくてもレインウェアやエマージェンシーシートの必要性は理解できますよね?

熊鈴の必要性

熊鈴は自分の存在を動物に気づいてもらうものです。
熊がいようがいまいが、山の中には鹿や猪は当たり前にいます。
トレイルランにおいては登山者の方に気づいてもらう目印にもなります。

また、滑落など怪我をして声が出せない、ホイッスルを鳴らそうにも息を強く吹くと痛みを覚えるような怪我の場合熊鈴だと手の細かい動きで音を鳴らせます。

ホイッスルが使えない怪我のシーンや自身の存在を知らせるためにも熊鈴は常に携帯しましょう。
・・・ですが、街中ではうるさいので鳴らさないマナーも必要です。

エマージェンシーキットの必要性

最初に謝罪しないといけないのですが、エマージェンシーキットに関しては最適解がまだわかっていないです。
あればあるだけリスクに対して対応できるでしょうが、持てる量は限られている中で何を選ぶべきなのか。
蜂に刺されたらポイズンリムーバーと言われていましたが、昨今ではほとんど意味がないという情報もあります。

何を持つべきなのかに関しては只今調査中なので、別途まとめて記事にします。

現時点では、傷を洗い流す未使用の水、傷口を処置するための清潔なビニール系の手袋と滅菌ガーゼ、捻挫を固定するテーピング、止血するための包帯といったところでしょうか。

さまざまな情報があるのでなるべく早く精査します!

ヘッドライトの必要性

ヘッドライトに関しても少し難しいと感じている部分があり、それはルーメン数です。
大会では必携品と定められているものの、そのルーメン数に指定は無く先に挙げた100均のヘッドライトも通ってしまった。

某登山情報サイトでは50ルーメンから200ルーメンくらいが望ましいとありましたが、50ルーメンは流石に厳しいのでは?と思う反面、ヘッドライトメーカーが公表しているルーメン数は基本マックスの数値。
そこから明かりを落として使用しているので実際のルーメン数が正確にどのくらいかはわからなかったりします。

ですのでここでは適切なルーメン数やバッテリーの持ち時間ではなく、ヘッドライトそのものの重要性を説いてみます。

ヘッドライトは夜間の視認性の向上も有り、自分の存在を伝えるものでも有ります。
ライトを断続的に点灯点滅させることでモールス信号のSOSの信号を発することもできます。

-ヘッドライトでのSOSモールス信号の送り方-
まず、SOS救難信号は「・・・ーーー・・・」と表記され、音で表す場合は「トン トン トン、ツー ツー ツー、トン トン トン」と短い音と長い音を3回ずつ組み合わせて発信します。
ライトでも同様で短い光を間隔をあけて3回、その後長い光を間隔をあけて3回、更にまた短い光を感覚をあけて3回。
これを一定間隔で続けます。
見晴らしのいい場所で土地勘が有り消防や警察、空港などの方角がわかっていたらそちらの方向に試してみるのもいいでしょう。

モールス信号は世界共通の信号なので覚えておくと同時に、重要な信号になるので誤解を与えないように不必要に信号を発信したりしないように、練習などは光が透過しない壁に向かって行いましょう。

腰ライトがあればヘッドライト入らないのでは?という方もいますが、腰ライトは装着していると体を動かさないとライトの照射方向は変えられませんが、ヘッドライトは頭を動かすことで照射方向を調整できます。

また、怪我した時などはヘッドライトは着脱しやすく手に持って照らすことも容易なのでヘッドライトは必ず携帯しましょう。
怪我に限らず道迷いや疲労、捻挫など軽度な怪我で下山が遅れる際もヘッドライトがあるとその安心感は格段に高まります。

普段ナイトトレイルしない方は夜の野外でどの程度の明るさになるか事前に確認しておくと、操作方法も併せて確認できるのでテストしておきましょう。

保険証の必要性

保険証は思わぬ怪我で病院にかかる際に必ず必要になり、原則原本でないといけません。
保険証がない場合は治療費は10割負担となり多額の支払いが必要になります。
後日返金も可能ですが、遠方の病院の際はわざわざ後日その病院に赴いて返金手続きをしないといけないので時間とお金が余計にかかってしまいます。

財布からいちいち出すのは面倒でしょうが、病院にかかる際に持っていないともっと面倒なことになります。
必ず携帯しましょう。

万が一、、、本当に万が一の時は身分証にもなり身元判明が早くご家族への連絡なども早くなります。

小銭とお札の必要性

これはとても大事です。
特に夏場に水が切れてしまいなんとか下山したものの、近くにお店はなく自動販売機だけしかなく、キャッシュレス決済はできないパターンがあるので現金は必須です。

中にはお札が入りにくい、小銭を入れてもなぜかすぐに出てくるなどの不具合のある自動販売機もあるので千円札と小銭はそれぞれ持っておきましょう。
お札は汗で濡れると使えなくなるのでジップロックなど防水の袋系に入れておくことを強くお勧めします。

僕は小銭だけ持って山に行き水が切れてしまい近くの自販機に小銭を入れたが500円と100円硬貨はなぜか認識されず買うことが出来ない、、、

濾過(ろか)機能付きのストローを常にエマージェンシーキットに入れていたので、登山口そばの飲めるかわからない溜まった水をチューチューしてその場を凌いだ経験があります。。。

スマホの必要性

これは携帯していない人は少数でしょうが、稀にサクッとトレイルに入って短時間で出てくる場合車に置いていくという人もいるのですが、必ず携帯しましょう。

万が一怪我などで動けなくなっても電波が入れば助けを呼ぶことができますし、道迷いの際は地図アプリを入れておけばルート復帰することも出来ます。

地図アプリはGoogleMapなどではなく、国土地理院の等高線が表示されるヤマレコGeographika-ジオグラフィカ-など専用のアプリを入れておきましょう。

事前にGPXデータを取り込み、マップをオフラインでも見れるようにしておくと余程複雑な地形でない限りは迷ってもすぐにルート復帰することができます。
まだ入れていない方はすぐにでもダウンロードしておくことを強く、強くお勧めいたします!!!

また、夏場に携帯する際はジップロックなど防水素材の入れ物に入れて携帯することを強くお勧めします。
滝汗をかいてスマホの画面に水滴がつくと意図せず写真の画面が開いたり、勝手にライトが点灯してしまい気が付いたらバッテリー残量が・・・という事もよくあります。

食べ物

ジェルでも良いのですができればバー系の咀嚼して食べるものを1つ持っておくことをお勧めします。
ハンガーノックで動けなくなってしまうことへの対策でもありますが、遭難してしまったり動けなくなってしまった際に食べ物を摂取すると少し落ち着きを取り戻すことができると言われています。

また、咀嚼して飲み込んだものは内臓を使って消化するのでその際に熱量も生み出してくれます。
最近はコンビニでも行動食に優れているサイズとカロリーの食べ物も多いので、賞味期限が長いものを一個ザックに入れておくと良いでしょう。

必携品はレース以外でも携帯しましょう

以上、必携品の必要性を説明してみましたが、ここでは山に入る上での必携品の重要性を説きました。
ことレースにおいての重要性を語るとそのスペックにも論点を向けないといけず、文章量も膨大で情報が散漫するのであえてレースにおける必携品の観点とは切り離してみました。

トレイルランナーの機動力はみなさんが考えているよりも圧倒的な力を秘めています。
数年前の熊本の豪雨災害の時には、道が寸断されたのでトレイル伝いで親戚の家の安否確認に行った方がいたり、レース中に大会フィールドとなっている山域で一般登山者の方が遭難してしまい捜索に出て救助した選手もいます。

また、普段からエマージェンシーキットを持っている選手が練習中山の中で怪我をした登山者の方に手当てをして一緒に下山するなどの話も見聞きします。

トレイルランナーと登山者の関係性はどうしても摩擦の部分が拡散されがちですが、実際にはこのように有益な関係性を構築でき、その機動力は山の救急車になり得ると思っています。

先日開催させて頂いたクマン100では、大会後のトレイルのチェック時に毎日そこの山を登っている地元の方から「こんなに登山道が整備されているのは初めて。毎年大会をしてほしい。」とありがたいお言葉も頂きました。

必携品を常に持っていると「意識高い系」的な扱いをされることがありますが、「持ってないお前がやばいんだよ!」という感覚になってほしいと、切に願います。

INNER-FACT 代表INNER-FACT 代表

INNER-FACT 代表

INNER-FACT代表の首藤(シュトウ)。 一部関西ではくびふじと呼ばれます。 基本的にはトレイルやランはソロでしかやらず、イベントや大会ではエイドなどスタッフ側で参加しています。

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