長距離ランナーの蠱毒(バトルロイヤル)! バックヤードウルトラは凡ランナーこそ出場するべき大会だった

写真提供:石川匠

 バックヤードウルトラ(正式名称:Backyard Ultra Last Samurai Standing)といえば、極まったウルトラランナーやトレイルランナーが集結する大会という印象を持ってる方が多いと思います。
 50時間330km以上走っても決着がつかず、敗者になるような極限の世界です。

 そんな大会に、凡ランナーである筆者が参加してみました。

 結果といえば、生き残るには到底及ばずの結果でしたが、大会に対するイメージは一変しました。

出場前
「最後のひとりになる覚悟がないと出るべきじゃない。超人たちに対して失礼では?」

                ↓
出場後
「これは凡ランナーこそ出るべき大会だ。あまりにも得るものが大きい。そもそもこれは大会ではなく、「ウルトラ超人ランナーのエンタメアトラクション」なのでは……」

――ウルトラ超人ランナー達の、エンターテインメントアトラクション(遊園地)

 こう表現するしかないというのが参加してみての正直な感想です。
 この記事ではどうしてそう思ったのかを綴っていきたいと思います。

大会のルール

 簡単に大会のルールを説明します。

・1時間に決められたコースを6.7km走る。
・これを毎時間ごとに繰り返す。(例えば50分で戻ってきたら10分休憩できます)
・最後に残った選手が完走者。
・それ以外はリタイア扱い。

 なので、100時間走ろうが1000km走ろうが、それ以上に走ってる選手がいればリタイア扱いになります。ウルトラランナーの蠱毒と言っても過言ではないと思います。

 筆者が出た高尾大会は約1kmの林道を3往復で1周です。1周で累積標高は130mで、常に降りっぱなしか登りっぱなしと言うハードなコースでした。

「ウルトラ超人エンタメアトラクション」と表現するしかないその理由

 この大会は前述したように、ウルトラマラソンや100マイルトレイルランナーの超人が集まっています。ウルトラマラソン24時間走世界記録保持者や日本の100マイルトレイルランナーの象徴であるTOMOさんもいます。
 筆者が出た高尾大会は22人しか出場者がいませんでした。
 凡ランナーがこんな少人数の中にぶち込まれるチャンスなんて他の大会にありません。
 どうしたって超人達と話す機会も出てきますし、その走りもうんざりするほど見られます。なんなら後ろについたり、会話しながら一緒に走れます(1往復くらいなら凡ランナーでもなんとかなります)。
 現にこの大会を通じて仲良くなった選手が数人います。

 ウルトラマラソン世界最強の選手は登りも下りもずっと走り、筆者が52分で周回をこなす中、涼しい顔で40分でラップを刻んでいました。完全に異次元です。

 TOMOさんは偶然となりのテントだったのですが、理想的なテントの設営(簡易ベッドや灯油ストーブまで持ち込んでいる)、テント内のギアの配置、休憩の過ごし方、サポートに対する的確な指示など、これが極まったバックヤードのエイドワークなのかと勉強になりました。これは普通の100マイルトレランレースのピットワークにも通じていると思います。
 こんな超常現象――ではなく、勉強になるようなことを常に体験できます。
 普通のレースだと運が良くてスタートでちらっと見かける程度でしょう。

スタート前のブリーフィング。TOMOさんのような超人が普通に隣にいる異空間。(写真提供:石川匠)

 他にも超人は沢山います。24時間160kmに到達してもリタイアした選手はほとんどいませんでした。
 25時間めのスタートでスタッフが「ここからがスタートです」と半笑いで告げたのですが、選手たちは当然のように受け止め、乾いた笑みを浮かべていました。
 みんななにかしら頭や身体能力がおかしいのは間違いありません。感覚が麻痺してしまったジャンキーみたいなひとばかりです。

肩の力を抜くため、日常のランを意識して練習仲間でもある選手と走る。(写真提供:石川匠)

 

 バックヤードウルトラの会場は基本的にピリピリしています。周回を重ねるごとにそうなります。でもそれは競技の厳しさ故にそうなっているのだと参加すれば分かります。
 他の選手やサポートなどに辛く当たってる選手なんてだれひとりいません。選手たちはみんな感謝しかしていません。自分のふがいなさに厳しくなって自責しているだけです。
 現に、こころざし半ばでリタイアしてしまった選手に対し、「すごいよ。ナイスラン」とみんなが称えていました。
 早めに辞めてしまった選手にも「なにかしら事情があったり、怪我でも抱えていたのだろう。残念だ」といい意味でドライです。
 筆者は最低限の目標、30時間の手前である29時間でリタイアしてしまい、意気消沈していたのですが、選手や友人から「何も分からない最初のバックヤードで29時間は上出来だ。誇るべき」と勇気づけられ、救われた気がしました。

 そしてこの大会は、リタイアしたあとに「ドンマイバッジ」が贈られます。
 このバッジを手に持ち、極限の状態を写真撮影して終了です。これは徳川家康が大敗戦したときに描かせた「しかみ像」に通じるものがあります。

Tomoさんのイラストが入ったドンマイバッジ

 一緒に参加して惜しくもノックアウトされたOSJ2022年総合優勝者の小林さん(写真提供:奥村友昭)


 あまりにいい表情だったので写真を使わせていただきました。

なにも考えずに一度出てみるべき大会

 「なにも考えずに一度出てみるべき」

 筆者は本当はこの一言を言いたかったのです。でもこれで動くひとはいません。

 「騙されたと思ってやってみろ」という常套句に近いかもしれません。でもこの言葉で本当にやるひとは少ないですし、筆者の嫌いな言葉でもあります。
 ライターとして、ひとりのトレイルランナーとしてしっかり言語化しよう。そう思ってこの記事を書いています。言葉を追加するならこう言います。

「一度出てみましょう。そうすれば違う世界が見えます。99%失敗するけど誰も笑わない。無謀すぎるから、挑戦しただけでみんな称えてくれます」

興味を少しでももったら出てみるべきその理由

 ウルトラ超人ランナー達と長く同じ時間を過ごせるというメリットは紹介しました。
 でもバックヤードは生き残る気がなくても出てみるべきです。
 そうしたときに具体的にどう楽しむか、どんな目標を設定するといいか考えたので書いていきます。

自分の限界を試せる

 例えば、自分がどれだけ距離を踏めるか試すのはどうでしょうか。

 筆者の場合、最長走破距離は185kmです(2018年のKOUMI100)。行動時間は31時間ほどです。これを越えるのが最低限の目標でした。うまく行けば2日は寝ないで進めるのではないかと踏んでいたので50時間を大目標にしていました。
 トラブルに見舞われて上手くいきませんでしたが、結果は29時間、193kmと距離だけは最低限の目標を突破することができました。

100マイル走ってとりあえず100マイラーになる

 100マイルレースを完走したことがない方だと、例えばこんな分かりやすい目標でも良いと思います。実際距離を踏みやすいバックヤードウルトラで初100マイルを目指すのは賢い選択肢だと思います。
 筆者が出場した高尾大会は1周で累積標高は約130m。24周160kmで3000mにもなります。これを24時間で走るのは大きな自信につながります。(難レースと言われているONTAKE100マイルでも24時間制限で累積4000mほどです)

バックヤードはなぜ距離を踏みやすいのか

 このレースは1時間のうちに6.7km走って戻ってくれば、余った時間は自由に使えます。筆者は疲れないように降りは惰性で走り、登りはほとんど歩いて大体52分で戻ってこれました。
 負荷は滅茶苦茶低いので、思う存分補給ができます。お腹もすきますし、補給がおいしく感じます。普通のレースよりも固形物が食べられます。胃もやられにくいです。
 レースでもこんなに食べられるんだ、と驚くかもしれません。良い実験になります。

身体のメンテナンスがしやすい

 筆者は右足にシンスプリントを抱えていたので、テントに戻るたびに、コジコジボールを母子球下あたりで踏んでいました(シンスプリントは不思議とここが効きます)。
・コジコジボール
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 この右足をかばっていたからか左足の腸脛靱帯が張ってきました。なのでテニスボールを腰に当てたり、マッサージガンを当てて張りをやわらげていました。おかげで最後まで炎症にならず、筋肉痛もほぼなしでレースを終えることができました。これが普通の100マイルレースだと序盤にリタイアしていたと思います。

装備を試行錯誤できる

 靴を5足以上持って行って、周回毎に変えている人もいました。身体の状態やサーフェスに合わせて靴を替えるのは有効な手段です。
 時間に余裕があれば着替えも頻繁にできます。
 走行時の装備ですが、基本的に周回やピストンなので、何も持たずに走れます。水が足りなかったらハンドボトルを持てばいいし、補給が不安ならジェルを持てばいいです。
 筆者は、リラックスするために、なるべく日常のランと同じにしようとしてジェルを1本だけポケットに入れて、ほぼ空身で走っていました。

次回に生かすなら。バックヤード対策

とりあえず一度出場してみたわけですが、次回走るならどう対策するか考えてみました。

最後のひとりになる覚悟があるならバックヤード専用の対策は必須

 これが結構特殊です。
 筆者は防災用の簡易テントを使っていましたが、荷物は取り出しづらいし、整理できないし、マットを敷いても寝ると冷気が伝わってくるし、大雨で浸水しそうになるなど、ストレスが半端なかったです。

 バックヤード常連の方は、画像のようなタープテントに簡易ベッドを入れて、着替えをハンガーに掛けるなど快適に過ごせるように徹底していました。こうすることによって、ふたりまで付けることができるサポートも動きやすくなります。

バックヤードで効果を発揮するタープテント


 筆者は大雨の中、着替えが億劫になってしまって、低体温症一歩手前になってリタイアしてしまいました。
 胃の調子が良く、脚も残っていたのにリタイアするのは初めての経験でした。
 バックヤードならではのリタイアかもしれません。こういった休憩時の環境対策を徹底すれば、少なくともあと5周は稼げたかもしれないと思っています。

バックヤードの敷居を上げている本当の理由とは?

 それは先述したように装備が多すぎることだと思います。これは競技レベルの高さよりも深刻だと感じました。
 記録を狙うなら前述したような装備が必要になります。そうなると車がないとほぼ不可能です。

 しかし、最初に出るなら筆者のように、なにも考えずに100マイルのレースに出る程度の装備+適当なテントで十分だと思います。なによりこれを理由に出ないのはもったいないです。
 出てみれば、周囲を観察して何が足りなかったか、それを補ってでも次回出ようと思うか判断できます。
 まずはウルトラ超人エンタメアトラクションに身を置いてみましょう。

役に立ったインナーファクトの装備

リストゲイターのロング

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 2日目の夕方から雨に見舞われたのですが、それまではリストゲイターのロングが無双でした(雨が降ってからは防水のテムレスに交換しました)

 走り出しは寒いので指先まで伸ばす。
 暖まってきたら手の甲にまとめる。
 テントに戻ったら完全に手首に下ろすか外して補給を取ったりマッサージをする。

 このルーチンがドハマりしました。利点としては手袋よりも圧倒的に温度調節がしやすく、嵩張りません。
 リストゲイターは木を掴むとひっかかってしまって危険ですが、バックヤードはすべて林道なのでこの心配がなく、ずっと使えました。

ラミーソックス(ミドル丈5本指)

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 高性能ワセリン、ガーニーグーを塗った足にラミーソックスは今回も鉄板でした。
 後半は大雨でしたが、マメ一つできませんでした。替えの靴下をいくつも持っていったのですが、ラミーソックス一足で足りてしまいました。

リストゲイター+ラミーソックス+インナーパンツ

インナーパンツ

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 いつものようにAnswer4の3インチショートパンツと組み合わせました。
 ラミーソックスと同様に今回もトラブル無しでした。大雨でもまったく股ズレせずに、すぐに乾いてくれるので一度も着替えませんでした。

 ラミーソックスとインナーパンツは、季節や距離を問わず、今後も変更が考えられない不動の装備です。

クーポンコード

 バックヤードウルトラで使用したインナーファクト製品を10%オフで購入できます。
 この記事を読んで着用したくなりましたら、このコードを使ってみてください(一部筆者の収入になります)

クーポンコード:bu2022
割引率:10%off
使用期限:2023年3月11日まで

リストゲイター
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ラミーソックス
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シームレスインナーパンツ
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江西 祥都江西 祥都

江西 祥都

ゲームやCMの脚本家、小説家、ライターです。 引き籠もって執筆中にあまりのストレスで山に逃走。山でも走り続け、後にこれがトレイルランニングだと知る。 現実逃避をし続け、今ではフルマラソンサブ3、100マイルトレイルレース上位5%のリザルトに……。沢登りやクライミングもします。 出張ランニングサービス-RUNKUR-(ランクル)の代表をしています。

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