UTMFに向けた私的サポートの計画と注意点

UTMFが近づいてきたからか大会の私的サポートについて質問をいただくことが増えてきました。
個別解答していたのですがこちらに備忘録としての意味も含めてまとめておきたいと思います。

今回は主にUTMFにフォーカスした内容にしていますが、その他の大会でもほぼ同じ内容ですので私的サポートを依頼したいと思っている選手や、サポートをしようと思っている方のお役に立てるのではと思います。

私的サポートルール

2022年のUTMFの競技規則を確認すると2022年2月時点では、KAI69kでは私的サポートは不可、UTMF165kでは可能だけど詳細な場所とルールは後日発表となってますね。

公式ページよりスクリーンショット

UTMFに出場される方は今後も国内同レベルの大会や海外レースも検討されているかと思いますので、海外で一般的に禁止事項となっているルール「ザック交換」に関しては注意してください。

「ザック交換」とは私的サポート可能エリアにて、選手にあらかじめ全ての装備をパッキングした交換用のザックを準備し、選手がサポートエリアに到着したら今まで使用していたザックと準備していたザックを丸っと交換する行為です。

イメージしにくいかと思いますのでF1に例えると、F1のレースではピットエリアにマシーンが入ってきたらガソリンの補給やタイヤ交換などするシーンを目にしたことがあると思います。
この時に事前整備したマシーンに丸っと乗り換えてレースに復帰する行為が今回で言う「ザック交換」になります。

ではなぜこの行為にが禁止なのかですが、ピット作業(水や補給食の補給、ウェアリングやギアなどの交換)も含めてレースという捉え方だからかと思います。

事実100mileレースはエイドポイントが10個はありますので、一つのエイドで3分短縮できるとレースタイムは30分短縮が可能です。
ランで30分縮めるのはなかなか大変ですが、ピット作業を効率化してエイド滞在時間を短縮すると比較的容易にタイムを縮めることは可能です。

ですのでザック交換を有りにしてしまうと、極端な例を挙げると私的サポート可能エリア分のザックとギアと補給食を予め準備しておけば大幅にタイムが縮められてしまいます。
そしてそれは、言わば走力ではなく財力の戦いにもなってしまうのでレースとして興醒めしてしまう結果に繋がると考えられています。

もちろん全てのレースがザック交換を規制しているわけではなく、むしろ明文化して規制している大会の方が少ないですが、トラブルの元になるなら最初からその認識で準備しておいた方が良いと思います。

他にも昨今ではドーピング検査をする大会もあるので、常備薬や胃腸薬、足攣り予防の薬なども成分が該当する場合があるのでそこはしっかり確認しておきましょう。

UTMFの私的サポートルールに関しては2019年の概要が確認できますので、現時点ではコチラに目を通し理解しておくのが良いと思います。
大きくルールは変わらないと思いますが、最新版が更新されたら必ずそちらも確認しましょう。

大会前の事前準備

大会前に必ず打ち合わせはしておきましょう。
最低限下記内容は確認及び決定しておきましょう。

  1. 私的サポート可能エリアの再確認
  2. 大会ルールの再確認(競技規則、必携品、私的サポートルール)
  3. 位置情報共有方法
  4. 必要な準備物
  5. アレルギーや好き嫌いのある食べ物

「1」と「2」は大会HPを目視で確認していきましょう。
「3」、「4」、「5」は別途解説します。

位置情報の共有

まず、選手の現在地がわかるように位置情報を共有しておきましょう。
手っ取り早いのはスマホの位置情報共有アプリがありますが、スマホ依存の場合は選手のスマホバッテリー消費が早くなってしまうのでお勧めしません。

大会によっては「応援navi」という選手の位置情報予測アプリがありますが、こちらもトレイルランにおいてはあまりお勧めできません。
選手のペースの平均で「予測」して位置情報を更新しているので、一定ペースで走るロードランでしたら精度は高いですが、高低差や天候による路面状況、渋滞が発生するトレイルランにおいては全く参考にならないといったケースも多々あります。

個人的に一番お勧めなのはIBUKIです。
3分毎に選手のリアルタイムの現在地を示してくれるのでかなり正確で、3分毎に選手のログが地図上にドット表示されるので選手のペースも把握することができます。
IBUKIはお試しレンタルもしているので、サポートスタッフや応援するご家族の方は選手に渡しておくと非常に便利です。

IBUKI公式ページよりスクリーンショット。

必要な準備物

私的サポートにおいて必要な準備物は色々とありますが肝となる点だけ抑えておきます。

まずは、ソフトフラスコやボトルの予備の準備。
これは壊れてしまった時もそうですが、携帯するドリンクは基本的に決まっているかと思いますので、事前に予備のフラスコやボトルにドリンクを入れた状態にしておくとピット作業が早くなります。
これは先に挙げた「ザック交換」のような禁止事項には抵触しないですし、多くのトップ選手も行っているので問題ありません。

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次に補給食の仕分け。
エイド区間毎にジップロックなどに小分けして、この先の区間ではこの補給食を持って行くなど決めておき小分けしておきましょう。
ただ、よくあるミスとして「用意していた補給食を渡し間違える」を見かけます。
ですので、小分けしている袋には大きくわかりやすく、どの区間で持っていく補給食なのかを書いておきましょう。

最後にウェアリング。
これは選手だけでなくサポートスタッフもですが、目的はお互いの視認性を上げるためです。

トップ選手のサポートでしたら同時に到着している選手の数も少ないのでお互い認識しやすく、準備もしやすいと思います。

ですが、ボリュームゾーンになると多くの選手が同時に来るので、サポートスタッフはわかりやすい服を着ておくことをお勧めします。
特にナイトパートでは選手はヘッドライトをつけており、サポートスタッフ側から選手の顔が眩しくて認識できない事もあり、選手側に見つけてもらう必要がある場面も想定できます。
ですので、サポートスタッフは常にわかりやすく同じウェアで出迎えるなど工夫をし、選手のウェアリングもしっかり頭に入れておきましょう。

可能であれば、大会当日のレース工程表も作っておくと安心です。
選手毎に完走目標タイムがあると思いますので、エイドポイント毎に目標到達時間を設定しておくと選手としても目標達成に近づきますし、サポートスタッフも何時くらいまでにエイドポイントに到着しておかないとという目安が出来てお互いにとってプラスになります。

アレルギーや好き嫌いのある食べ物

選手によってはアレルギーなどもあるので事前に把握しておきましょう。
食べ物だけでなく羽毛にアレルギーのある人などもいるので、選手のためと思ってエイドでダウンを肩からかけたりするとアレルギー反応が出る人も稀にいます。

また、過去に出た大会でこの食べ物を食べたら吐いてしまった、体調が悪くなったなどあればアレルギーで無くてもその時のイメージを想起してしまうので出さないようにしましょう。
逆にこれを食べたら復活したなどあればそのような食べ物はあえて準備しておくなども。

エイドポイントでの作業の効率化

僕自身が今まで多くのトップ選手のサポートを経験させていただいたり、間近でその作業を見たり、セミナーでお話を聞いた内容をここではまとめていきます。

選手目線:エイドポイント到着前に何をするかイメージ

エイド到着1kmくらい手前になってきたら、どの順番でピット作業をするか考えておきましょう。
例えば、こんな順番ですとか。

  1. フラスコorボトルなどの水分補給
  2. ジェルのゴミ捨てと補給
  3. 着替えとシューズの交換、ヘッドライトなどのギア準備
  4. 天候状況によってレインなどのウェアリングの準備(取り出しやすい位置にパッキングなど)
  5. 食事

あくまでも一例ですが、これらの作業を何分で終わらせるなど意識しておくと効率的なピット作業が可能になります。
上記例ではデポバッグがある場所想定でしたので、それ以外サポートエリアの種類によってはもっとシンプルになります。

ウォーターエイド、大会エイド、私的サポートエイド、デポバッグエイドなどシチュエーション毎にイメージトレーニングしておきましょう。

サポーター目線:エイドポイント到着前に何をするかイメージ

まず、公式エイドの内容と位置情報は頭に入れておきましょう。
特にトイレとリスタートの位置は選手に聞かれる事も多いのでしっかり頭に入れておくと良いでしょう。

また、次のエイドまでの距離と、どのくらいの高低差の山を何個超えるのかなど、コースプロフィールも頭に入れておくと選手の質問にも答えられるのでお互い心の余裕が生まれます。
何回もその大会に出ているトップ選手でも「次のエイドまで何キロだっけ?」という質問をよくしているのを耳にしますので。

公式エイドの位置情報と次のエイドまでのコースプロフィールを確認したら、私的サポートエイド準備に入りましょう。

他の選手の邪魔にならないようになるべくコンパクトかつ、作業がしやすく、わかりやすい配置に補給物資をおいていきます。
この時補給物資を置く場所は毎回同じにしておきましょう。
そうするとミスが少なくお互い迷わず効率的にピット作業ができます。

ピット作業

エイドに到着したらピット作業を素早く行います。
トイレに行きたい場合は先に行っておいた方が精神的に余裕が生まれます。
生理現象は我慢すると意識がそちらに向きストレスにもなるので。

使用するザックは決まっているでしょうから、どのポケットに何を入れておくか決め共有しておけば、選手がドリンク交換している間にサポートスタッフが補給食を交換するなど手早く行えます。
補給食の交換はゴミで手がベタついたりするので、気になる人は使い捨てのビニール手袋などはめておけば良いと思います。
そうすると次触るものを汚さずにも済みますので。

夜間パートに入りそうな時はヘッドライトの装着を促したり、防寒着をアクセスしやすいところにパッキングし直したりもしておきましょう。

またTシャツやベースレイヤーの着替えなどを行う場合はレースナンバーベルトをつけておくことをお勧めします。
安全ピンなどで着脱する場合寒いと手が悴んでうまく作業できませんが、ベルトタイプだと非常に効率的です。

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最重要事項

私的サポートを行うにあたって一番重要なことです。
意外と忘れがちになる部分ですのでここの部分はしっかり認識しておきましょう。

私的サポートスタッフへの謝礼と予算

私的サポートをお願いする場合、大会現地までの往復交通費や場合によっては宿泊費、サポート当日必要になるガソリン代や食事代など事前にどうするか決めておきましょう。

僕の場合は基本的に全て実費でご飯は1食500円換算の1日3食、別途謝礼は不要でお受けしております。
往復交通費に関しては元々サポートに入らなくても応援で行く予定にしているなどであれば、当日サポートにかかる実費+αくらいになるかと思いますが、そこは双方で事前に話し合っておきましょう。

また、私的サポートに入る際は公式エイドに無い飲み物や食べのもを提供することもあると思いますので、そこに関しても事前に買い物内容を決めておくか、サポートスタッフに任せる場合は大まかに予算を決めておきましょう。

DNFの判断

選手によってはエイドに到着した時にその日の調子や体調などによってメンタルがやられた状態でエイドに到達することも多々あります。
その時にDNFを促すのか、先に進めるように元気付ける言葉を投げ掛けるのか。

この判断はものすごく難しいと思います。
僕自身いまだに正解はわからないですが、一つ決めていることは「サポートスタッフ側からDNFを促さない」ということです。
どんなにメンタルがやられていても、目に見える大きな怪我や明らかに危険な状況でない限り選手のレースをスタッフが終わらせてはいけないと思っています。

この考えに至ったのは2020年のShiga1(滋賀一周ラウンドトレイル)FKTの丹羽薫選手のフィニッシュを目の当たりにした時です。
僕も現地におり別の選手のサポートに携わっていたのですが、一緒に挑戦している丹羽選手の状況も常に情報がリアルタイムで入っていました。

あまりにも過酷な挑戦で僕がサポートしていた屈強なメンタルと走力を兼ね備えた選手でもDNFに至った中、丹羽選手も同様にメンタルも肉体も追い込まれた状況にありました。
丹羽選手もDNFとなってしまうのかな・・・と思いながらレースを見守っていたら、あるポイントで急に覚醒してブーストがかかったように走り出した丹羽選手。
それまでまともに走れなかったし、エイドに到着したら走りたくないという弱音も吐いていたのに、です。
そして丹羽選手は無事フィニッシュし、本人も突如走れるようになった現象に驚いていたと話していました。

このように、直前まで「もうダメだ・・・」「もう走れない・・・」という状況でも、本人も理解できない何かのきっかけで突如メンタルが回復して走り出せるようになることがあります。
特に朝日に向かって走れる状況下、漆黒の闇の中から朝日の眩さに転換するタイミングは多くの選手が復活する姿を目の当たりにしています。

ですので、大きな怪我、メディカルスタッフや大会運営スタッフが制止をしない状況であるならば、選手のレースは選手のものなのでスタッフ側から止めない方が良いと思います。

選手がすごく辛そうな状況ではやめさせてあげたくなる気持ちもわかります。
どんな言葉をかけてあげたら良いのかわからず、無力さを感じてしまうこともあると思います。
でも選手からしたら、エイド毎に待っている人がいるだけで走り出せる活力になります。
声をかけることが出来ない時は寄り添うだけでも十分なサポートになっているのではと思います。

これも丹羽選手の話になりますが2019年のShiga1の時に丹羽選手はサポートスタッフとして僕と同じエイドポイントにいました。
その時数名の選手がエイドに到達するも雨の中ということもあり数名の選手がDNFを口にするも、一人の女性選手だけが無言で立ちすくんでいました。

DNFか先に進むか。
先に進む足が出ない選手の横で、丹羽選手は何も言わずだた隣で寄り添うようにそこにいるだけでしたが、数分無言だった女性の選手は「行きます!」と言葉を振り絞る。
それを聞いたDNFを口にした選手たちも「女の子がいくなら俺らもいかなやろ!」と一緒にリスタートすることに。

多くの経験をしている丹羽選手ならかける言葉はいくらでもある中で、あえて何も言葉を発しない姿は今も目に焼き付いています。

選手がDNFを口にしても、サポートスタッフは先に進んでくれることを信じてサポートしていくことが良いかと思います。
もちろん明らかに危険を感じる場合は制止する必要がありますので、そこの判断はしっかり行う必要がありますが、、、それが難しいんですよね。
怪我なら危険を察知しやすいのですがメンタルは目に見えないので・・・。

以上が僕が今まで経験し、間近で見て、話を聞いてきた私的サポートスタッフの計画と注意点です。
これが絶対ではないですが、比較的サポート経験は豊富な方だと思いますのであまり出ていない情報ではないかな?と思います。

参考になると嬉しいです。

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