ランナーや登山者が少ないマイナールートや、市街地と近接したルートでの意外な落とし穴が「登山口はどこ?」問題。お目当てのトレイルを目前に右往左往するのは、もどかしいものですよね。
そこで今回は地図読みのテクニックを活用して、アプローチのちょっとした地形やランドマークをもとに正しい登山口を見つける方法を検証します。
目次
めざす登山口はどこ?今いる登山口はどれ?@奥武蔵・多峯主山
今回の検証の舞台は、埼玉県にある多峯主山。奥武蔵山域の玄関口として親しまれている標高271mの低山です。しかし、お隣の天覧山からの縦走ルートを除いても、南側の飯能市街地から4つの登山口が設けられており様々なアプローチが可能。
しかも写真のような道標がある登山口はA・Dの2ヶ所のみ。仮に登山口が見つかったとしても、それがどの登山口か解らなければ、その先がどんなルートになっているか想像することもできませんよね。
今回はそれぞれの登山口周辺とそこから伸びる登山道の地形に着目し、正しい登山口を見つけて正しい登山道を進んでいおるかを判断する方法を実践してみます。
地形図を使って登山口と登山道を検証!
登山口A〜見返り坂ルート〜
天覧山へも通じる登山口A、下の写真のように道標があります。ただし天覧山の表記はなく、これが地図上の登山口Aと判断するには、地形図と入山してから続くルート周辺の景観を照合する必要があります。
では地形図から読み取れる、登山口Aからのルート上のランドマークを挙げてみましょう。地図記号が示すランドマーク、等高線が示す地形、どちらもヒントになりますよ。
では早速、実際の景観と照合しながら歩いてみましょう!
取材時は冬場だったので水は殆ど涸れていましたが、しっかりと護岸が整備された川が流れていますね。
しばらく進むと、右手の斜面に地図記号で表現されていた墓地が見えて来ました。ランドマークがひとつでも一致すると、安心しますよね。
地形図通り、天覧山西側の斜面をトラバースする平坦な登山道が続いています。反対側にも尾根が伸びる谷間なので、日当たりは良くありません。
荒地の地図記号がある、短い草が生えた平坦池に到着。背後(西側)を見ると、稜線上のコルがくっきり見えますね。
天覧山への登山道と分かれ、沢を渡ってさらに進みます。とても小さな沢で橋も高い欄干がないので沢に気づかず進んでしまいがち。
しかし「橋を渡る」ということは「登山道が沢をまたぐ」こと。低山に近接した市街地の場合は、用水路やただの溝のように見える沢(川)もありますが“地形的に低い場所なのでそこを流れている”という明確な理由があります。小さな橋でも見落とさないようにすることが、地形を把握するヒントになりますよ。
荒地の地図記号がある草原に、高麗峠への分岐が。ここを直進すれば見返り坂、登山口Aからのルートで合っていたようですね。
登山口B〜水道山北尾根ルート〜
登山口Bの最初のピークは直下に飯能市上水道配水場があることから、水道山と呼ばれています。
こちらは、特に等高線が示す山の起伏が登山口および登山道を特定する足がかりとなります。以下の通り、地形図上にチェックポイントをまとめてみました。
さあ、登山口Bから景観を照合しながら歩いてみましょう。
地形図の通り、登山口の下に川が流れ込んでいますね。橋を渡って、進んでいきましょう。
登山口から配水所までは、等高線に対してほぼ垂直に道が伸びています。登山口Aの等高線に対して並行なトラバース道は平坦でしたが、この道は真逆。斜面(=坂道)をまっすぐ登っていきます。
坂道を登り切ると、飯能市上水道配水場に到着。奥の巨大なタンクは山麓からも目立ち、格好のランドマークになります。
地形図の通り、配水所の敷地脇に沿って登山道が伸びています。地形図ではここから道を示す地図記号が実線(一車線道路)から破線(徒歩道)に変わった通り、登山道も舗装路から未舗装に変わります。
配水所を越えると、水道山のピーク下をトラバースします。木々が生い茂っているため写真ではわかりにくいのですが、赤線でなぞったのが水道山ピークの稜線です。
水道山からわずかに下ると、登り返すコル(鞍部)に到着。ここを進めば、登山口Aから続く見返り坂との合流地点は間近です。
登山口C〜本郷尾根ルート〜
登山口Cが一番の難物。登山道に入ってしまえば“尾根”という比較的明瞭な地形を進むだけですが、その入口が問題です。標識はもちろん、登山口A・Bのような川や配水タンクなどの明瞭な地形やランドマークがありません。
ここで注目したいのが、アプローチ道の起伏です。
一見すると単純な直線道路。しかし上の写真を見ればわかるように、登山口の前後で、登り坂を越えて下り坂に…と起伏があります。なぜこの部分が膨らんでいるか?を考えることが、登山口Cを見つける大ヒントになります。
上の地図の赤線は、登山口C周辺の等高線をなぞったもの。標高が高い方から低い方に等高線や指のように張り出しており、ルート名の通り“尾根”になっています。登山地Cの真上まで曲率のきつい等高線(顕著な尾根)が迫っており、アプローチ道の下まで尾根を描く等高線が続いています。
すなわち、このアプローチ道は本郷尾根の中腹をまたいでおり、その場所が膨らんでいたのです。
そこで、道路が一番高くなっているところが登山口と判断し、そこから続く道を進んでみることにします。
はじめのうちは地図記号の通り畑や宅地と近接した道を進みます。登山道自体がえぐれているため“尾根”のように見えませんがもう少し先まで行ってみましょう。
常緑樹の森林であるため写真ではわかりにくいのですが、赤線でなぞった様に両側が低くなっている“尾根”の地形であることが把握できる場所まで来ました。あとは、この尾根をたどるだけですね!
登山口D〜御岳尾根ルート〜
登山口Dは中腹にある御嶽八幡神社を経由するルート。下の写真の通り、登山口を示す道標が設置されています。
ここも登山口Dであると特定するためには、その先の地形やランドマークを確認することが必要。そのために必要なチェック項目を、地形図に書き込んでみました。
先程の登山口Cとは対照的に、地形図からもかなり多くの情報が読み取れます。これらを、実際の景観と照合しながら進んでいきましょう。
地形図で道を示す地図記号が実線(一車線道路)から破線(徒歩道)に変わる場所に、鳥居が設置されています。鳥居上部の中央に表示されている通り、御嶽八幡神社への入口であることがわかります。
少し進むと、分岐が現れました。地形図を見ると右方向の道は行止まりになっており、左方向に進まないといけません。このように“登山道が分岐している”ポイントでは、地形図を再確認しての判断が重要です。
地形図に従って進むと、右手は山側で高く左手は沢側で低くなっているトラバース道に。沢の対岸には、地図記号で示された老人ホームも確認できますね。
さらに進めば、両側にある大きな沢に挟まれた御岳尾根の取り付きに到着。この登山道が登山口Dからのルートであったことに、確信が持てることでしょう。
コンパスを使って登山口から進むべき方向を確認!
ここまで地形図から読み取れる情報と景観を照合して正しい登山口を探す方法をご紹介してみましたが、コンパスも併用することでさらに精度が高まります。
ただし、その前に必要な作業が。それは地形図に「磁北線」を書き込む作業です。
そもそも磁北って何…?
地形図は真上が真北になるように作られています。ひたすら真上に向かって進めば、北極点(北緯90度)に到達します。しかし、コンパスの赤い針が指すのは北極点ではなく北磁極という別の場所。
このため、経線に沿って北極点に向かう「真北」と、コンパスの赤い針(磁針)が北磁極を指す「磁北」にはズレが生じます。
日本の場合、磁北は真北に対して約4度〜10度西に傾いています。その角度は緯度によって変化し、北(高緯度)は大きく、南(低緯度)は小さくなります。
例えば北海道・宗谷岬の地形図では10度10分、沖縄県・波照間島の地形図では4度20分という具合ですね。
地形図に磁北線を書き込んでみましょう
地形図にはそれぞれ磁北がどれだけ西にズレているかが、上の写真の様に余白に表記されています。多峯主山が載っている『飯能』の地形図の場合は、約7度10分。ズレを表す言葉は写真の様な「磁気偏角」の他、「西偏角度」「磁針方位」など様々ですが、意味は同じです。
地形図は真上が真北になるように作られているので、余白を除いた地図の印刷面の右端が、そのまま真北になります。
そして地図の印刷面の右下端から左上に向かって7度10分の線を引けばそれが磁北線となる訳です。
分度器やコンパスなどを使う方法もありますが、もっとも手軽で正確なのが下の偏差タンジェント表を使う方法です。
三角関数を用いたこの表、どういう理論で作成しているかを説明すると長くなるので…。まず左から2列目のタンジェント数値は無視して下さい。
新地形図というのは写真左上の余白が狭い地図、旧地形図というのは写真右下の余白が広い地図のことです。
今回の地形図『飯能』は余白が狭い新地形図、西偏約7度10分なので、5.28cmという数字が導き出されます。
すなわち…。
地図の印刷面の右上端から5.28cmのポイントと右下端を直線で結ぶと、それが西偏角度が7度10分の磁北線になる訳です。
あとは等間隔で最初の磁北線と平行な線を引いていきましょう。上の地図では4cm間隔で引いています。25000分の1地形図の場合、地図上の4cmは実際の1kmになるので、距離感覚が掴みやすいのです。
後ほどコンパスの透明なプラスチック板を通して見るので、磁北線はなるべく濃く&赤など見やすい色で書き込むと良いですよ。
YAMAP・地図プリ(byヤマレコ)・ヤマタイム(by Yamakei Online)などのサイトでは、磁北線を自動的に記入できる機能が。併せて活用してみて下さいね。
コンパスを使って正しい進行方向を導き出そう!
では、A地点から天覧山に入山する場合を例に解説します。実際はきちんとした道標が設置されていますが、コンパスを使ってそれが正しい方向か確かめてみましょう。
まずは、コンパスの部品の名称を覚えておきましょう。通常の円形コンパスと違い、四角いベースプレートが付いているのが最大の特徴です。
A地点に到着したら、用意するものは磁北線を記入した地形図とコンパス。では正しい方向を導き出す手順を解説しましょう。
まずは地形図の現在地と進むべき登山道を、ベースプレートの長辺で結びます。
次にコンパスの回転盤矢印が地図に記入した磁北線と平行になるまで、回転盤を回します。
最後にコンパスを持って、ピンク矢印の通り回転盤矢印と磁針が重なるまで回りましょう。この時、進行線が指す赤矢印が正しい方向になります。
この時、コンパスの目盛は約70度を指しています。これは地図に書き込んだ磁北線(=磁北)と、A地点(=現在地)から登山道(=目的地)を結んだいわゆる進行方向の「角度の差」。
手順3で、回転盤矢印と磁針を重ねたのは地図上の磁北と実際の磁北を一致させる作業。これによって進行線が示す地図上での進行方向が実際の進行方向と一致する訳です。
地図とコンパスを上手に使ってスムーズに登山口へ
いかがでしたか。今回お伝えしたテクニックは登山口を探すだけでなく、登山中に現在地や進行方向を正しく把握するのにも有効なものです。
地図とコンパスを上手に活用して、安全でスムーズなランや登山を楽しんで下さいね!
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