ランニングエッセイVol.16「限界の補給食」

インナーファクト ランニングエッセイ
ライター江西祥都によるランニングに関するエッセイのシリーズです。
月二回更新予定。

限界の補給食

 水道水ソムリエの朝は早い。
 暑い夏の日、ジョギングをしていて喉が渇いたら公園に立ち寄って水道水を飲んでいる。金がもったいないので自販機なんて使わない。
 なるべく日陰にある水飲み場がいい。日向だとお湯が出てくるので、しばらく出し続けないと冷たくならないからだ。水道水を飲まないひとは結構いるみたいだけど僕はまったく気にならない。がぶがぶ飲んでいる。そんな僕のことを散歩中の大型犬が凝視していた。同類だと思ったのかもしれない。その勘は多分当たっている。
 15km~20kmくらい走るので、道中に公園の水飲み場は無数にある。その水道はそれぞれ美味しさが違う。日陰にあるから冷たいとか、その下にある下水からの匂いが少ないとか、なんか生臭さが少ないとか評価基準がある。もはや公園の水道ソムリエといっても過言ではない。そういえば小学生の頃、あの校舎の三階の空き教室前の水は美味いなどと豪語して通っていた記憶がよみがえってきた。性根がまったく変わっていない。

 僕は6時間くらい走るトレイルランニングのトレーニングでもなるべく節約していて、補給食は200円以内を基準にしている。今時の小学生の遠足でももっと金額は大きいだろう。また小学生になってしまった。いや、実は本物の小学生なのでは……

 メニューはこんな感じだ。

・マルトデキストリンの粉100gを500mlの水道水で溶いた液体(400kcal)、50円
・貧者のカロリーメイトことバランスパワー(350kcal)、80円
・コーラ500ml(250kcal)、60円(スーパーで1.5Lのコーラを買って500mlのペットボトルに移し替えている)
・予備:かし原の羊羹二本(100kcal)、40円

 大体1000kcalで200円以内に収まる。数年前まではミニあんパン5個入り(500kcal、100円)を愛用していたが、4個120円くらいになってしまったのでリストラした。
 ごく稀に知人や友人と一緒に走ることがあるのだが、1個300円のジェル(100kcal)を頻繁に摂取してたりする。おのれ、格差社会……

 この極限まで節約してしまう「悪癖」は、子どもの頃からだ。
 いつも食費を削りまくって趣味に興じていた。
 小学生の頃、おこづかいは駄菓子屋ではなくゲームソフトに消えていた。中高校生の頃は学食代を削ってゲーセン代に充て、格闘ゲームをしまくり、全国大会に出るまでになっていた。その後22歳くらいまではクラブミュージックにはまり、満足に食べずにレコードをディグりまくったり、レコーディングの機材を買っていた。
 その度が過ぎる節約により、体重は50kgを切っていて、よく背の高い女性に間違えられていた。
 その後は、書籍や映画にかけるお金が増えていって今に至っている。
 僕は基本的に趣味が減ることがないし、あまり懐古に走ることがなく、今の最先端を追ってしまう。おかげで今でも対戦ゲームはそれなりの腕で、ひどいと週に3回映画館へ足を運び、月に5冊は本を読んでいる。

 ――食べものにお金を掛けるのは無駄。そのぶん趣味に金を使ったほうがいい。

 この考えを最適化するための習慣が染みついてしまった。恥ずかしいことに今でも抜けきっていない。
 若い頃は極端で、「趣味がなくなって食に金をかけだしたらつまらない人間になる」という恐怖心までもっていた。これに罹るともれなく栄養失調になる。もはや文系インドアオタクの自傷といってもいいかもしれない。
 ある趣味にはまっていてそれに使う道具や活動費のために一時だけ食費を切り詰めるのはいい。僕みたいに趣味がありすぎて、もはやなんのために食費を削っているのかわからなくなると完全に病気だ。社会活動や生活の節々にまでその影響が現れてくる。

 僕がこの悪習から脱出できたのは(まだ治療途中だが)、三十路を越えてはまったトレイルランニングのおかげだった。
 山を長時間走り回っていると疲弊する。どうしても回復するための栄養が必要になる。安価な糖質などのカロリーだけを摂っていてもリカバリーできないのが実感できる。
 身体が真にタンパク質を欲する。特定の野菜や果物を無性に食べたくなる。その欲求を素直に叶えてみる。味覚が鋭敏になっている。食べものが無性に美味しい。身体が瑞々しさや活力を取り戻す。人間、これ以上の幸せはないんじゃないかと思う。
 動いて、摂取して、出して寝る。
 この基本的な行動の奥深さを知らずに生きていた。
 今では、長時間のアクティビティの後は身体が欲するものを好きなだけ食べている。
 食自体を趣味にするのもいいかもしれないと思うようになって、ウイスキーやクラフトビールを飲み歩くようになった。そうすると酒に合う食べものにも興味が湧いてくる。
 蕎麦やカレーやクラフトビールに凝りはじめるおっさんの気持ちが理解できて、少しだけほっとした。

 今日も日課のジョグをする。喉が渇く。僕は相変わらず水道水を飲んでいる。
 もちろん節約して、一杯1000円以上もするクラフトビールを飲むためだ。

江西 祥都江西 祥都

江西 祥都

ゲームやCMの脚本家、小説家、ライターです。 引き籠もって執筆中にあまりのストレスで山に逃走。山でも走り続け、後にこれがトレイルランニングだと知る。 現実逃避をし続け、今ではフルマラソンサブ3、100マイルトレイルレース上位5%のリザルトに……。沢登りやクライミングもします。 ライティングの依頼がありましたらお気軽にお問い合わせください。

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