ランニングエッセイVol.24「ジョギングが続く方法と自己モニタリング」

インナーファクト ランニングエッセイ
ライター江西祥都によるランニングに関するエッセイのシリーズです。
月二回更新予定。

ジョギングが続く方法と自己モニタリング

 体力を付けたいとか痩せたいとかメンタル改善のためとか理由は様々だけど「ランニングを始めたい、でも怪我が怖くてできない」みたいな声がSNSに溢れている。
 それを肯定するかのように「走ると脚に体重の4倍の負荷がかかる」とか「膝の関節は消耗品」などとコメントが並んでいる。これは合ってる面もあるけど、負荷を軽くすればそんな事態にならなかったり、それを気にするのはアスリートレベルの話だったりするので、そこまで問題がなかったりする。
 このひとたちはもれなく、「筋力がないから怪我をするとか、体力がないから体調を崩す」と思い込んでいる。これもある意味合ってるけど、そこは重要ではなかったりする。ものすごくグレーだしケースバイケースなのだ。
 でも普遍的なことがある。
 これは正確には「自分の体力や筋力以上の負荷をかけたら怪我をする(体調を崩す)」ということだ。体力がない初心者はキャパシティが小さいし、体力のある上級者は逆に大きいから怪我をしにくい。それだけだ。これは「個別性の原則」と言われている。
 だから体重三桁のランニング初心者が脚をまったく壊さずに痩せたり走力をあげることは理論上は可能だ。ただこれは前述したように、キャパシティが小さいから少しの無理が怪我に繋がってしまうので難易度は高い。逆に痩躯でフルマラソンを3時間切るようなランナーでも怪我をしたり体調を崩すこともある。誰しも成果を試したくなる。より速くなろうと高負荷のトレーニングをしたり、レースに出たりして無理をするからだ。
 繰り返すが、限界を超えなければ怪我はしない。
 これは言うのは簡単だ。各々の限界なんて知ったことではないからである。
 そしてこの限界を知ることが難しい。

 この、これを続けたら怪我をするかもしれないという予感を「センサー」と呼ぶことにする。これは疲労を関知することもできる。疲れたらペース(強度)を落とせば怪我をしない。ただこの自分の身体の状態を把握する行為は実はかなり難しい。どうしてもやりすぎてしまって怪我をする。
 僕は走り始めた頃、2km走っただけで膝が壊れた。すごいペースでいきなり走ったからだ。嘘だろ……と信じられなかったが、自分を過信していただけだったのだ。センサーは錆び付きまくっていた。
 この自分の限界を把握するセンサーを育てるには、ゆっくり走ること、すなわちジョギング(ジョグ)をするしかない。体力がなかったり病気を抱えていたり太りすぎている場合は歩きでも一向に構わない。
 このとき、自分の身体をじっくり観察することが重要だ。ただ、最初は判断材料が貧弱なので疲れているのか一時だけきついのかすらわからない。とにかく文字通り前に進んでいって経験値を溜めるしかない。この筋肉の張りは大丈夫なやつだ、とか、このピキーンって痛みはマジでヤバいやつ! みたいに判断できるようになる。
 このセンサーを育てるのは、実は体力や筋力を付けることよりも重要だ。
 育てていれば、怪我を最小限に抑えられる。すると継続的に運動ができて体力や筋力は自然と後から付いてくる。

 自分の身体の状態を把握するために、ゆるく走ったり歩く。
 こう考えると始めやすくなるかもしれない。少なくとも頑張ることから解放される。
 決して、体力を付けるためだとか体重を落とすためなどと大きな目標を掲げてはいけない。

 ランニング上級者は「疲労抜きジョグ」という一見意味不明な行動をする。「疲れてるなら休めよ!」と誰しもが思うだろうが、彼らは休まない。なぜならより回復するしより強靱になるからだ。これはレースや高負荷のトレーニングの後のリカバリーになっている。
 走れないほど疲れていたり故障したりしていたらもちろん走らない。しかし、それほどまででもないなら、いつも通りのジョグコースをゆるく走る。このときに1kmあたり30秒以上遅いペースなら距離を短くして切り上げたほうがいい。このとき、変な痛みがないか確かめる。ある場合は思い切って休む。これを繰り返していき、いつもの努力感でいつものペースに戻れるようになれば疲労はかなり回復したことになる。
 ジョグは走るための土台のようなもので、体力のキャパシティや回復力を上げることもできる。だから、走らずに完全に休んでいるよりも距離を稼いだほうがいい。センサーの感度を上げる絶好の機会でもある。走ることに精通してくるとこういうことが理屈抜きでできるようになる。
 ランニングの上級者とはこういったことができるひとだと思う。タイムが速いことは付加価値にすぎない。

 この「ゆるく走って身体の状態を確かめる」は、日常生活において本当に使える。
 仕事が忙しいときや、疲れているときほどやったほうがいい。メンタルが削られているだけで身体の疲労はそれほどでもないと分かったりする。だとすると、対処法も直ぐに浮かぶ。
 僕は職業柄、引き籠もりがちだが、このジョグによる自己モニタリングのおかげで健康と社会性を保てている気がする。よく、「自分の身体のことは自分が一番よく分かっている」というひとがいるが、実際にはなかなか難しい。

 他人に指摘されないとわからないようなことまでジョギングで把握できる。自己モニタリングのためにジョギングを趣味にしてもいいくらいだと思う。

江西 祥都江西 祥都

江西 祥都

ゲームやCMの脚本家、小説家、ライターです。 引き籠もって執筆中にあまりのストレスで山に逃走。山でも走り続け、後にこれがトレイルランニングだと知る。 現実逃避をし続け、今ではフルマラソンサブ3、100マイルトレイルレース上位5%のリザルトに……。沢登りやクライミングもします。 ライティングの依頼がありましたらお気軽にお問い合わせください。

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