インナーファクト ランニングエッセイ
ライター江西祥都によるランニングに関するエッセイのシリーズです。
月二回更新予定。
「フォームと姿勢」
フォームの話をしたい。
「動作の型」のことだ。ランニングエッセイなのでランニング時のフォームの話を主にするつもりだけど、実は日常生活にはびこる細かいフォームこそが重要だと思っている。
歩いたり、自転車の漕ぎ方だったり、椅子に座る姿勢だったり、スマホをどうやって見てるかなどあらゆる場所で各個人ごとに独自のフォームがある。そして効率が良く身体の負荷が少ないフォームは大体似通っている。
「日常生活でフォームなんて意識してない、大げさだ、そんなのフォームじゃなくて姿勢だろ」と思うひとが大半だろうけど少し説明させてほしい。
悪い姿勢をとっているとダメージが蓄積していって徐々に具合が悪くなっていく。
スマホやモニターを見たり本を読むときについ首が前に出てしまう。集中してるのでこの無理な姿勢を維持してしまう。こうするとストレートネックになって首こりになったり血流が悪くなって日常生活にも支障をきたすようになる。胴体の上に頭をしっかりのせるような正しい姿勢をとっていると消耗は最小限に抑えられて、寝るだけで翌日には回復できる。
ランニングのフォーム論争で、「フォームは大切。積極的に改善するべき派」と「フォームなんて走ってると自然と最適化されていく派」に別れているように思える。
僕は後者のスタンスをとっていて、月200km走れるように工夫を積み重ねると体力が自然と付いてくるしフォームもできてきてそれなりに走れるようになると考えている。「このフォームにすれば速くなる」なんて特効薬はないくらいの意味で言っているだけでフォーム自体は超重要だ。
初心者の時期に月に200km走ろうとすると、身体に様々な不調が降りかかる。ときには故障する。これを予防したり解消しようとすると、いかに楽に体力の消耗が少なくそして効率よく進むにはどんなフォームにすればいいのか身体と対話しながら試行錯誤するようになる。
着地は身体の前ではなく身体の真下を意識するとか、脚を素早く折りたたんだほうがいいとか、胸を張って顔を上げたほうがいいとか、地面からの反発をもらうにはとにかく限界まで身体を伸ばすと効率が良い、などと実感してそれを反復してものにしていく。
マラソンレースでもっとも速く走る方法はできるだけイーブンペースを保つことだ。最初は抑え気味で後半上げるネガティブスプリットのほうがいいかもしれない。自信なさげなのは、僕は最初に突っ込むポジティブスプリットのくせがあってよく自爆しているからだ。
それを実行しようとすると前述したように自然とできるだけ楽でずっと維持できるようなフォームになる。苦しくなると脚が上がらなかったり喘ぐように顎が上がったりする。脚が売り切れたらピッチ走法に切り替えて耐えるという戦術があるが、こんなのはせいぜい数キロしかもたない。そもそも苦しくならないのが重要だ。
こうして僕は走り始めて15年以上経つのにいまだにフォームを最適化するために試行錯誤している。
日常生活の話に戻す。
電車のホームを歩いていると、周囲のひとの足の遅さにいつも驚かされる(毎日15km走っている僕が体力バカなのは自覚している)。というかせめてスマホ見ながら歩くのをやめろ。歩くのに集中すると楽しいのにそれに気づかずかわいそうなひとだと哀れみすら湧く。
そのなかには歩けば歩くほど身体を悪くしているのではと思うほどフォームが崩れているひとがいる。姿勢は猫背で姿勢が傾いている。それもそのはず靴底が斜めに減りすぎていた。もうこのひとはこの先一生傾き続ける人生が待ち受けているのではないか。そのひとは電車に乗ると座ってスマホを眺めているが、首は前に出て完全にストレートネックになっている。
こうなると普通に日常生活を送っているだけでじわじわと具合が悪くなっていく。
整体に行こうが、フォームローラーやマッサージガンを買ってケアしようが、一時症状が緩和するだけでどうにもならない。
正直かなり詰んでる状態だと思う。
でも僕も、走る前は同じような状態だったと思い出す。運動の習慣は皆無で、椅子に浅く座り足を組んで前のめりになってずっとノートパソコンのキーボードを叩いていた。
僕は走るようになってから、日常の姿勢にも自然と気をつけるようになった。
というか日常生活を送っていてダメージを食らっているようだと、速く走るなんて無理なので真っ先に改善しようとする。
楽な姿勢とは、ずっとその姿勢でいられることだ。
実は良い姿勢は少し疲れる。基本的に脱力しているが、芯に少しだけ力が入っている。でも結局その姿勢は長く保てるし慢性的なダメージにならない。
ずっと立っていられる姿勢がある。ずっと座っていられる姿勢がある。ずっと歩いていられる姿勢がある。
実は寝る姿勢も重要だ。誰しも寝違えたことがあるだろう(実は現在進行中で寝違えて首が痛い)。
楽を試行錯誤するのは楽しい。この先の財産になる。走るフォームを模索してるのとなにひとつ変わらない。
僕はランニングをして体力がついて健康になったと思っていたが、それは短絡しすぎているのかもしれない。
ランニングを通じて「フォームや姿勢は重要であり、しかも改善は不可能ではない」と自信を持てたのが大きい気がする。生活が楽しくなった。
僕は自室に溢れるリカバリーグッズを眺めている。
ストレッチボード、フォームローラー各種、コジコジボール、テニスボール、マッサージガン、懸垂フィンガーボード(これは鍛えるためのものだがぶら下がるとストレッチできる)。よくこんなに買いそろえたものだと呆れてしまう。
これらは今ではあまり使っていない。姿勢が良くなって無駄に体力を消耗することがなくなったからだ。
一番重要なのは、嫌でも長時間使うマットレスや作業椅子な気がしている。
特にマットレスは姿勢の維持だけではなくリカバリーも兼ねているので、それなりに高価なものを使っている。煎餅布団で寝ていた昔の自分が信じられない。
最近は寝るフォームについて試行錯誤している。無意識下での寝返りを制御するにはどうすれば……などと考えては寝落ちしている。

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