ランニングエッセイVol.28「ランニングと老いの関係」

インナーファクト ランニングエッセイ
ライター江西祥都によるランニングに関するエッセイのシリーズです。
月二回更新予定。

ランニングと老いの関係

 二十年振りくらいに地元の友人と会ったら、あまり見た目が変わってないと指摘され、美容整形を疑われてしまった。してないと否定し、顔の横の大きなシミを指差し、「だったらまずこれを消すでしょ」と、反論しても納得してくれない。どうみても四十代には見えないらしい(僕は四十代後半に差し掛かっている)。
 オタク特有の挙動不審な言動は若く見られやすい。苦しいことからすぐに逃げる人生だったので社会経験が浅く、精神面は未発達でいつも浮ついている。あまりに世間になじめないので怖くなって現実を直視するのをやめた。だから視線が定まらずにうろうろしていたり、逆に虚空をずっと見つめている。こういったことが容姿に現れてしまっている。友人はそういった未熟さを好意的に若さと捉えているだけだ。そう主張するが、友人は取り合ってくれない。
 逆に、これだけ長い間会っていないのに大して変わってないと思えるのは異常だ、なにかしてるだろうと詰め寄られる。でも本当にアンチエイジング的なことはしていない。美容液すら塗っていないし、ひどいと湯シャンで悪臭まで放っている。

 若く見えるのは一旦受け入れよう。なぜならこれはエッセイのネタになると思ったからだ。
 その原因はなにかと考える。
 ここはランニングエッセイのコーナーだ。こう書くのが正道だろう。
「若く見えるのはランニングのおかげ! ランニングは凄まじいアンチエイジング効果がある! 十歳は若返る! いや、二十歳くらい若返る! シワは消え、ホルモンが満ちる! 美容整形するよりとにかく走れーーーーー!」
 そうすると、これを読んでいるひとは僕がいつも身につけているインナーファクトの製品を買い、売り上げが伸び、原稿料も増えて幸せになる。こんな展開が望ましい。

 ……でも正直、ランニングにそこまでの効果はない。
 ……まあ、いいところマイナス五歳くらいだと思う。

 主要因を真面目に分析すると、とにかくストレスを避けて生きているからだと思う。身も蓋もないが。
 言い換えると、苦労をしていない。だから身体に一番悪い労働は最小限にしている。経験則だが、こうすると白髪がほとんど生えない。若い頃、徹夜でゲーム開発をしていたら、白髪どころか生え際がみるみる後退した。

 次に効いていると思えるのは、「自分は衰えていないという前向きなメンタル」だと思う。
 これはランニングが一番実感しやすいし、適している。
 日々走る。すると走れる距離が伸びる。移動速度が速くなる。でも呼吸は楽になっているし、脚の疲労も少なくなる。身体は日々、強靱になっていく。
 僕は三十歳過ぎから走り始め、年々走力は上がっているので、若返っているような感覚がある。さすがに十五年以上も走っていると頭打ちの感はあるが、レースなどで好成績を残すとまだまだやれているという実感が得られる。
 この実感は確かな証拠になり、少なくとも身体面で自信がつく。
 走って身体が強靱になることよりも、それによって得られるメンタル面での平静のほうが重要ではないかと思う。
 僕はおっさんから走り始めたので、この副作用の重要性にすぐ気づいた。走りまくるとレースの成績は上がっていく。正直気持ちが良い。万能感さえ持ち始める。
 でもやり過ぎると成果の前借りになる。過度に練習すると数年で頭打ちになり、停滞するのは目に見えていた。
 するとメンタルはどうなるのだろうか……正直、不安になる。
 極限の世界で勝負しているトップアスリートは、いち早く老化を感じるのではないだろうか。きっと少しの衰えを鋭敏に感じとる。そしてそれを覆す修練は困難を極めるだろう。
 僕のような市民ランナーなら、たらたらと走っていれば、五十歳くらいまで走力は上がっていく。走るのが楽しくて、ずっと続けたいと思えるなら肩の力を抜くのも手かもしれない。
 少なくとも僕は、怪我をおしてレースに出るような真似は絶対にしなくなった。身体にもメンタルにも悪いのは楽しくない。それは僕のもっとも嫌うストレスだ。
 そうやって線引きできるのは市民ランナーの強みだと思う。

 僕はあと数年で伸び悩むだろう。老化によりできていたことがままならなくなる。なんでもない段差で脚が引っかかり転びまくるだろう。
 そのときは開き直って、滅茶苦茶遅れてきた(温存してきた)アスリートの世界の一端を楽しんでみたいと思う。衰退する肉体をじっくり感じながら必死にもがいてみる。そうすると一瞬だけ全盛期を凌駕できたりするかもしれない。
 でも過度に抵抗するのはやめたい。なによりきつくて辛い練習は向いていないからだ。ランニングとはずっと寄り添って生きていたい。

 なんだか、若さを保ったり、アンチエイジングなんてどうでもいいことと思えてくる。
 年老いても楽しく生きられればそれでいい。
 そのためには、趣味でもなんでもいいけど「今が一番上手い」や「今これをしてるのが一番楽しい」を持つのが良い気がしている。
 創作でもいい。なにかを作り続けていると精神が充実する。
 とにかく体力があるとそういったことを続けやすいし、新しいことを始める切っ掛けも掴みやすい。
 だから僕は、とりあえず毎日ランニングをして体力を維持しているような気がする。

江西 祥都江西 祥都

江西 祥都

ゲームやCMの脚本家、小説家、ライターです。 引き籠もって執筆中にあまりのストレスで山に逃走。山でも走り続け、後にこれがトレイルランニングだと知る。 現実逃避をし続け、今ではフルマラソンサブ3、100マイルトレイルレース上位5%のリザルトに……。沢登りやクライミングもします。 ライティングの依頼がありましたらお気軽にお問い合わせください。

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