滋賀一周ラウンドトレイル、通称シガイチが今年2022年4月30日から5月8日にかけて行われた。
総走行距離438km、累積標高28,300mの壮大なレースに59名が参加し、37名が完走しました。
その初代女子優勝者にINNER-FACTがサポートするチーム「低山なめるな広島」の一員である武市香里選手が輝きました。
国内では今後TJAR(Trans Japan Alps Race)と双璧を成すレースになるのではと言われており、注目度も増していくと思われるので今後このレースを検討する選手の参考になればと思いインタビュー記事を残します。
Shiga1-シガイチ-とは
大会名となっている「滋賀一周ラウンドトレイル」にあるように、大津港を起点に滋賀県下のトレイルを一筆書きしたコース設計となっています。
サイクリストやウルトラランナーが挑戦される琵琶湖一周の「ビワイチ」と混同される方もいますが、ビワイチは一周約200kmの舗装されたロードに対して、シガイチはコースの9割が未舗装路のトレイルで締められます。
TJARとシガイチの両方を完走された江口航平選手がFacebookにてわかりやすく比較していたのでご紹介。
【距離、累積、制限時間】
-TJAR-
距離 約415Km
累積標高差 約27,000m
制限時間 192時間(8日間)
エイド・サポートを受けてのチャレンジではなく、自らの力で走破することを目指した限りなく自己完結したスタイル。
ちょっとハ-ドな山岳アドベンチャ-レースとのこと。-シガイチ-
距離約438km
累積標高差 約28,300m
制限時間 192時間(8日間)
一周できたら、どんなに楽しいだろう。
滋賀の魅力的な山々を、全国の、全世界の人々に知ってもらえる、そんなトレイルができたらどんなに素晴らしいだろう。
そんな思いから、このプロジェクト。
エイドやライフベースがしっかりしていて、寝るのは屋根がある建物の中!まさに選手ファースト
【選考について】
-TJAR-
書類選考から選考会、そして定員オーバー時は抽選で30 名という狭き門。
ビバークポイント(長時間行動後に標高2000メートル以上ビバーク)確保など、スタートラインに立つことが難しい。-シガイチ-
グーグルフォームで回答。
エントリーすること自体のハードルは高くない。
どのような選考が行われているかはわからないが、スタートラインのハードルは低い。
選手サポート体制が手厚い為と思われる。
定員50名で募集していたが、61名がスタートラインに立っているので定員については流動的なのかな?【コースの特徴】
-TJAR-
3000メートルを越える高所から炎天下の市街地まであり、コースの半分はロードラン。
気象情報の振り幅は広く、選手の対応力が試される!!
道は明瞭でロストの危険はほぼない。寝ぼけて逆走はあるある。-シガイチ-
トレイル率が約90%以上!
一周するために道を繋げているので、ルートファインディング能力を試される区間あり。
夜間だとかなり進みにくく選手はスマホなどで、現在地を確認しながら何とか進む。
標高は1377メートルの伊吹が最高峰で、基本的には樹林帯なので気象条件の振り幅は少ない。【困難性】
-TJAR-
ロード区間が多く身体への負担が大きい。
ロードではマメができやすく、できると走れなくなり地獄のロードが待ち受けている。
エイドやライフベースはなく、山小屋での補給も禁止のため食糧を3日分ほど携行するので何かと大変。
宿泊は全てシェルターなので、全身濡れた状態なら悲惨。
ペーサーやサポートは禁止。-シガイチ-
トレイル率が90%以上ということもあり、すすまない。
コース上で登山者とすれ違うことは少ない。
マイナーな登山道や登山道を開拓した道不明瞭で、ルートファインディング能力を試される。
スマホで現在地を確認しながら進まないと前進できない箇所もある。
エイドやライフベースがしっかりしてるので、走ることに専念できる。
ペーサーやサポートはOK。【比較して】
コーススペックは同じようなもの。
タイム的にもTJAR≒シガイチ(初見の場合はシガイチのタイムが延びます。)同じようで、コンセプトが正反対というのが僕の正直な感想。
TJARは基本的に選手が衣、食、住を全て背負い進む大会。山小屋での補給まで禁止だし。。。第三者に応急処置を受けたらアウト。まさに、放置プレイ!
シガイチは、選手が走れるように環境を整えてくれている。
行動食など持たずにスタートしても、エイドやライフベースで全て補給可能。
メディカルスタッフが処置までしてくれる まさに「上げ膳据え膳」でレースに挑める!【総評】
江口航平選手のFacebook投稿より
TJARとシガイチどちらも困難性は高い。
一人一人にドラマがありゴールの感動は同じ。
完走にしか味わえない禁断の味で病みつきになるかも 東の横綱はTJAR。西の横綱はシガイチ。
TJARは2年ごとの開催。シガイチはどうなるのかな?毎年は無いと風のうわさで聞いているのだが。。。
武市香里選手とは
広島県在住のトレイルランナー。
ロングトレイルかつ山岳系のレースを得意とし、彼女を表現する最適な言葉は「強い」に尽きる。
厳しい環境下でも弱音を吐かず、静かに前を見据えてしっかり歩を進めていく。
彼女は言葉を多く発さずSNSなどでも発信は控えめなのでその努力は見えにくいものの、厳しい天候でのレースでもしっかり完走し締めくくる結果からその努力の熱量と濃度は容易に想像ができます。
大会前の試走段階や当日のペーサーやサポートなども充実しており、彼女の人間性も周りの人達の協力する姿勢や人数を見ると伝わってくる。
そんな彼女がシガイチに挑んだきっかけやレース当日の装備、心境などを語ってくれたのでご紹介していきます。
武市香里Shiga1インタビュー
早速ですが、Shiga1にエントリーしたきっかけを教えてください。
プレ大会が開催されたときに知りました。
その時は出たいなあと少し思った程度かな?
丹羽さんや田口さんが、FKTをやったときに、自分も、やってみたいなあと思いました。
過酷なコースだということは分かってはいましたが、自分の限界に挑戦するためにも出たいと思いました。
Shiga1は2019年にプレ大会が行われ、当時はグループエントリーとソロエントリーの2種類有りステージレースでした。
その時の模様はShiga1公式動画がありますので是非ご覧ください。
2020年に丹波薫選手がFKTチャレンジした模様も動画があります。
エントリーしてから大会までの練習内容を教えてください。
一般的なレースと違い一週間以上もかかるレースの練習方法はみんな気になると思います!
とにかく休みの日は山へ行きました。
山に行く日は1日に8時間以上山の中で動いてました。
エントリーしてからの期間は雪で近所に走れる山が無かったので、片道1時間以上かけて広島市内の山へ通いました。
1月〜3月は仕事が忙しくなかったので、休みも多く、練習はたくさんできました。
スピードは意識せず、ゆっくりでも長く。
休みの日に追い込んだ分、 仕事がある日は基本的にジョグで疲労を抜くのをメインに行いました。
他にもShiga1を完走された選手にどんな練習をしたのか聞きましたが、みなさん「とにかく長く山にいた。長く行動できるように、体の感覚が山に慣れるように。」と似た様な回答でした。
大会前に試走は何回くらい行きましたか??
3回行きました。
①1月の半ばに、南郷公園(A1)〜余野公園(LB1)、四日市に1泊して余野公園(LB1)〜鈴鹿峠(A3)。
②3月末に、還来神社(A21)〜南郷公園(A1)この区間はオーバーナイトです。
③4月初旬に、おっきん椋川(LB6)〜小川集会所(LB7)。
広島から滋賀県までは高速で片道5時間以上かかるので、仕事しながらこの回数試走に行くのは本当にすごいです!
この結果が優勝に繋がったと言っても良いのではと思います。
コースのエイド箇所などはGoogleMapに落とし込みましたのでご紹介。
Shiga1はペーサーを付けられますが、ペーサーはつけましたか?
3人にお願いしました。
LB1から交代で入ってもらい、 A14からLB6までは2人体制でした。
近くに他の選手もいたので、ルートファインディングは協力して行いました。
Shiga1はマイナールートを行くことがほとんどなので、ルートファインディングが肝です!
試走に行っている点と、ペーサーがいたり他の選手と協力出来る事はメンタル的にもかなりプラスに働くと思います。
大会公式サポート以外にも、私的サポートを受けられますが依頼はしましたか?
A14から専属で信頼している友人に入ってもらいました。
最初はペーサーの送迎だけのつもりでしたが、食事、デポバックの整理、必携品のチェック、充電など色々やってもらいました。
サポートに入っていた方は僕も友人で、彼女は大会ボランティアとしても活動しその後サポートに入っていました。
ハードワークの中しっかりサポートもしている姿は健気ですごいなと思っていました!!
エイドポイントやLBで気を付けていたことはありますか?
とくに、LBを出るときの時間、行動計画表通りに進むことを意識していました。
ほぼ予定通りに進むことができましたが、 疲労回復を優先してもっと寝るなど融通をきかせてもよかったかな、と思います。
寝る時間、休憩する時間の管理はすごく難しいのではと思い質問してみました。
肉体的、精神的な疲労で寝たはいいものの起きれなかったり、逆にメンタルが不安定になり寝付けなかったりと選手によって「寝る」という時間の使い方は難しかった様です。
LBでの睡眠時間について詳しく教えてください。
LB1は仮眠無し
LB2と3は1時間弱ほど横になったものの全く寝られず
LB4と5は1時間ずつ
LB6は2時間
LB7は3時間
途中眠くて眠くて仕方ないということはあまりなかったですが、もう少し寝られていたら疲れはたまらなかったかなあと思います。
やはり眠れないタイミングもあったのですね。
それにしてもトータル睡眠時間が7時間というのは恐ろしい、、、
辛い時期も多々あったと思いますが、DNFは頭をよぎりませんでしたか?
考えなかったです。
LB4の手前から膝を痛めて下れなくなったとき、まずいかなぁと思いましたが、ボランティアの方が先に進めるようにマッサージやテーピング等処置してくれて、これ以上無理だという雰囲気をどこからも誰からも感じなかったので、安心して進むことができました。
ただ毎回、LBにたどり着く前の最後の長い下りで膝の痛みが酷くなって足が止まり、気持ちも急降下させながらなんとかずるずる下ってました。
言い切りました。彼女の強さの真髄が詰まっているような回答ですね!
もうすぐLBでという喜びよりもやはり目の前の苦しみは大きいのですね。
それでもLBにたどり着いたら前に進める強さは形容し難い勇気が必要なことでしょう。
完走を確信出来たタイミングを教えてください。
還来神社です。
ここまで来られたらもう時間もあるし、難しいコースもないし、大丈夫と思えたから。
この区間は試走もしていたのでメンタル的にも余裕が生まれたのかもですね。
フィニッシュした瞬間の心境は?
ほっとしました。
ぼろぼろになりすぎて少し恥ずかしかった。
でも写真を見ると笑顔だったので、やっぱり嬉しかったんだと思います。
どの選手も同じような感想を聞きました。
「もう走らなくていいんだ」「無事に辿り着けたんだ」いろんな思いがあったでしょうが、笑顔でフィニッシュしている姿は本当に印象的です。
大会中一番印象に残ったことは?
蓬莱山から、スタートからゴールまでの山々が全部見えたんですが、それが一番感動しました。
きつかったけど全部自分の足でまわって来れたんだな~と。
できるだけ人に頼らずにやってやるんだ、と思ってたけど、結局ぼろぼろになってどうしようもなくなって皆に助けてもらったなあ~ と、情けないような嬉しいような複雑な気持ちだったのを覚えています。
自分が進んできた山々が見え、これから帰る先が見えるポイント。
筆舌に尽くし難い想いが込み上げそうです。
次回大会参加を考えている人に一言お願いします。
やってみたいという気持ちが少しでもあるなら参加することをおすすめします。
こんなに長い時間、走ることに集中できる機会は滅多に無いし、色んな自分と向き合うことができて、貴重な経験になると思います。
一週間以上の休みをとり、それに向けてトレーニングして、レース後のリカバリーを考えると本当に壮絶なレース。
挑戦しないと得られない経験ですね。
武市さん、初代女子チャンピオン本当におめでとうございます!!
インタビューにもお答え頂きありがとうございました!!
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